発達障害者が就労し、社会適応するための準備のひとつとして、ソーシャル・スキル・トレーニング(以下SST)というものがあります。
現在広く普及しているのは子ども向けのものですが、成人の場合は本などの情報をもとにして自分や身の回りの人と実践することができます。
今回は、SSTとは何かと、成人が自分でSSTを実践する方法についてお伝えします。
ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)とは
まず、SSTとは何かの定義について説明します。
内閣府による解説
内閣府に、SSTについて詳しく解説しているページがあります。
SSTとは,エス・エス・ティ,社会生活技能訓練などとも呼ばれることがあり,前節の認知行動療法と社会学習理論を基盤にした支援方法の一つである。
社会の中で,相手から自分の望むような反応(望むような回答,理解など)を得るためには,一定の認知や行動(言動)のスキルが必要である。たとえば,親しくなりたいと思うクラスメートへ話しかけたときに,相手も同じように自分と親しくなりたいと思い,それを表現してくれるような結果が得られる話しかけ方などは,人によっては何の苦もなくできることであるが,一部の若者にとっては,一定の知識を得て,訓練をして,初めてできるようになることである。そのようなときに,必要な知識(どのような言動が望ましいかなどの情報)を与え,練習(行動リハーサルなど,ロールプレイなどを通して実際にやってみる体験)できるように支援の順序とコツを定め,構造化した支援の方法がSSTである。
簡単な解説
内閣府の解説を簡単にまとめると、以下のような感じになります。
SST(社会生活技能訓練)とは、社会生活において多くの人が自然に身につける適切な言動(ソーシャルスキル)を自然には身につけられない人に対し、どんな言動をしたらよいのかの知識を与えたり、訓練をしたりするもの
SSTは現在、主には子ども向けの支援施設などで、集団でのワーク(グループワーク)やロールプレイなどを含めて実践されています。
最近は成人向けのものや、成人向けのSSTについての資料や本なども出はじめています。
成人の場合はセルフSSTがオススメ
SSTというと残念ながらまだまだ子ども向けが主流といった感じで、成人向けのものはかなり少ないです。
二次障害で外出やグループワークが難しい、地方都市などの在住でグループワークを実施しているところに通えないなどの場合、自宅でも自分や周囲の支援者などとSSTを実践することができます。
本を活用
「SST」のキーワードで本をネット検索してみると、たくさんの本がヒットします。
大半は子ども向けのものですが、どれも成人にとってもそれなりに学ぶものがある内容だと思います。
キーワードを変えて「発達障害 ビジネスマナー」「発達障害 働く コツ」などのキーワードで検索すると、成人向けのSSTに近い考え方の本がヒットします。
一例として、こんな本があります。
知的障害や自閉症の人たちのための 見てわかるビジネスマナー集
非常に易しくわかりやすいビジネスマナー本で、「ビジネスマナーはどういうもので、なぜ必要なのか」という、いわゆる普通の職場や社員研修などではなかなか説明してもらえない部分までが丁寧に説明されています。
自閉圏の人は「明文化されていないルール」が不得意なことが多いですが、この本ではそれがひとつひとつ明文化されています。
ネット書店で本を検索すると、関連本や「こんな本も買われています」といったサイトのおすすめから良い本が見つかることもあります。
検索キーワードも少しずつ工夫しながら、いろいろと探してみましょう。
ネットを活用
ネットで「成人 SST」で検索してみると、たとえばこんな資料が見つかります。
成人発達障害者ためのグループワークを使ったSSTプログラムの詳細な資料ですが、読んでみるだけで参考になりそうです。
セルフSSTなら家から一歩も出ずに学べる
セルフSSTのよいところは、家から一歩も出ずに学べることです。
成人向けのSSTプログラムは現在あまり豊富ではないため、成人はなかなかこの恩恵にはあずかれません。
成人発達障害者が社会適応の術を学ぶにはいままで、基本的にはリアルの人間関係で失敗を繰り返し、満身創痍になる必要がありました。
中には本人や周囲がひたすら傷ついていくだけで、なかなかスキルを身に着けられないという不幸なケースもあります。
しかし、いまは幸い、徐々にいろいろな本や資料が出はじめています。
これなら、最小限の負担で、家にいながらにして手軽にSSTについて学ぶことができます。
支援者や職場の人と一緒に実践してもOK
本や資料では不安があるとか、いろいろな練習をしてみたいという場合は、一歩踏み出して、近しい人や周囲の支援者、職場の人などに協力を仰ぎましょう。
いろいろとなかなか上手にできないなかで、人に頼ることができる、質問ができる、人間関係の中で試行錯誤ができる、というのも、立派なソーシャルスキルのひとつであり、実はそれこそが真髄だと、私は思っています。
試せるものから気軽に取り組んでみて
自宅でSSTの本や資料を読み込むことなら、比較的気軽に始めることができるでしょう。
ひとつずつ、試せるものから気負わずに取り組んでみてください。
ゴールが遠いように思えて挫けそうになることもあるかもしれませんが、あなたはそれでも一歩ずつ確実に前進していっているはずです。