スズキ新型R06Aエンジンチューニングについての考察

※こちらの記事は過去のブログの転載となっているので投稿日と時系列のズレが発生しております。ご了承ください。

先月、MRワゴンに搭載されてデビューしたスズキの軽自動車用新型エンジン「R06A」。

今回はそのR06Aエンジンについて、現時点で解る限りの私なりの考察をしてみたいと思います。

ただ、はじめに断っておきますが、私はノーマルの状態なんかに興味ありません。 当然ですが新型エンジンですので、旧型のK6Aより低速トルクがあり乗りやすく、扱いやすく、スムーズで燃費も良くなっているのは当たり前なので、それらノーマルでのインプレッションについては他の自動車専門サイトでも見ていただければいいと思いますので。

私が興味あるのはあくまで「R06Aのチューニングの可能性、構造上の欠点、利点」などです。

つまりどこまでチューンナップできるのか?その耐久性は?ウィークポイントは?…などです。

今回はそうした視点のものでの記事になりますのでご了承ください。

なお、このページに使用した画像の一部はネットから入手したものをベースにしておりますのでもし画像使用などについてクレームが入った場合にはこの記事ごと削除することもありますことをご了承ください。

その前にまずスズキの軽自動車用エンジンの遍歴という意味で旧エンジンとの簡単な比較ですなお、K6Aについては私のJA22に積まれている初期型のスペックです。最新型では7kgほど軽量化されています。

F6A(DOHC)
インタークーラーターボ
K6A
インタークーラーターボ
R06A
インタークーラーターボ
シリンダー配置
直列3気筒
直列3気筒
直列3気筒
ボア×ストローク
65.0mm×66.0mm
68.0mm×60.4mm
64.0mm×68.2mm
圧縮比
8.3:1
8.4:1
9.1:1
総排気量
657cc
658cc
658cc
出力(PS/rpm)
64/6500
64/6500
64/6000
トルク(kg-m/rpm)
8.7/4000
10.5/3500
9.7/3000
エンジン単体重量
約80kg
約68kg
約56kg
タービン
IHI RHB3
HITACHI HT06
使用ガソリン
無鉛レギュラー
無鉛レギュラー
無鉛レギュラー
基準ブースト圧
0.8kg/cm^2
1.1kg/cm^2
バルブ駆動
DOHC ロッカーアーム式
4バルブ/シリンダー
HLAつき
コックドベルト駆動
DOHC 直打式
4バルブ/シリンダー
アウターシム調整式
ローラーチェーン駆動
DOHC 直打式
4バルブ/シリンダー
シムレス式
サイレントチェーン
シリンダーブロック
鋳鉄製
ディープスカート型
独立ベアリングキャップ
クローズドデッキ
アルミダイキャスト製
ハーフスカート型
ラダービームロアケース
オープンデッキ
アルミダイキャスト製
ディープスカート型
独立ベアリングキャップ
オープンデッキ
インジェクター容量
210cc
230cc
レッドゾーン
8500rpm
8500rpm(MT)

それでは、以下にR06Aエンジンの各パーツごとについて書きたいと思います。

シリンダーブロック

↑左が従来のK6A、右が新型R06Aのシリンダーブロック。 どちらもアルミダイキャスト製です。

まず気になるのはクランクケースの分割方法。 K6Aはクランクシャフトセンターで分割するハーフブロック構造で、その下に一体型ベアリングビームを持つ「ラダービームロアケース」というまるでレーシングエンジンのような設計でクランクシャフトの支持剛性の非常に高い構造だったのですが、なぜかR06Aでは旧来のディープスカート型に戻り、なおかつすべてのベアリングキャップが一体となっているベアリングビーム構造ではなく独立したベアリングキャップとなっています。 たしかにミッションとの結合剛性という点ではディープスカート型は有利ではありますが、鋳鉄ブロックのF6Aならまだしも、アルミブロックでベアリングキャップが独立型では明らかにクランクシャフトの支持剛性が低下してしまうと思われますので、ノーマルでは問題ないものの、チューニングしてパワーアップしていくとこの部分の剛性が不足してベアリングの偏当たりやメタル流れ、最悪は焼き付きなどの損傷に繋がる可能性がありますので心配です。

個人的にはチューニングベースという視点からするとこのやり方は「退化した」としか言えないです。

(それとも写真で見えないだけでベアリングビームがついているのだろうか?それなら良いのですが…)

なお、R06Aは前面のバルクヘッド部がやたら大きくなっていますが、これはウォーターポンプやエアコンコンプレッサー、オルタネーター等をブロックに「直付け」することで取り付け剛性を高め、振動や騒音を低減させるためとのことです。 ただしこれはブロックそのものの剛性とはあまり関係ありません。

また、シリンダー上部についてはR06AもK6A同様、ウェットライナーのオープンデッキとなっています。

クランクシャフト

↑左がK6A、右が新型R06Aのクランクシャフト。

これもチューニングという見方からするとあきらかに「退化してしまった」と言わざるを得ない部品です。

見て解るようにメインベアリング、クランクピンともに明らかに径が細くなっていますし、それとともにロングストロークとなっていますので、クランクシャフトの剛性にとってたいへん重要な「オーバーラップ」がほとんど無くなってしまっているのが痛いです。

↑クランクシャフトのオーバーラップ。 クランクシャフトを前方から見たとき、メインジャーナルとクランクピンの断面が重なる部分が多いほどクランクシャフトの剛性は高くできます。 つまり、剛性面だけで言うとジャーナルやピン径が太く、ショートストロークなエンジンのほうが有利というわけです。

もちろん、今回のR06Aエンジンは「軽量化および低摩擦抵抗」を優先させたエンジンなのでこうした剛性面で不利な設計になってしまうのはある意味仕方のないことだというのは理解しておりますが、やはりチューニングの素材としてのポテンシャルは低くなってしまったというのは明らかだと言えます。

パワーアップ、および高回転化していくとクランクシャフトのねじれ振動や曲がり振動が問題になってくることは容易に想像できます。 3気筒ですのでさすがに折れることはないとは思いますが、若干不安です。

ピストン/コンロッド

↑左がK6Aエンジン、右がR06Aエンジンのピストン/コンロッド。

まずピストンには大きな問題はないと思われます。 ボアが小径になったことでより軽量化がされていることでしょう。

しかしここでも問題はコンロッドの剛性にあります。 ロッド部の細さもさることながら、なによりも頼りないのはベアリングキャップの貧弱さです。 K6Aのほうが厚く、なおかつ補強リブまで入っているのに対して、R06Aのほうは非常に肉が薄く、補強リブも入っていません。 さらにコンロッドボルトも細くなっているように見えます。 これでは高回転まで回したときや、そこからの強力なエンジンブレーキ時などに生じる力によるベアリング部が縦長の楕円に変型してしまう「クローズイン」現象が起きやすく結果としてメタルの焼き付きに繋がる(最悪は大端部メタル焼き付きからコンロッドが折れてシリンダーブロックを突き破る、いわゆる「足を出す」ことも考えられます)危険性さえあります。

また、メタルの中ではもっとも厳しい条件に晒される大端部ベアリングの荷重を受ける面積もクランクピンの細径化により減少していますので、これもチューニングしてトルクを上げていったときにメタルの損傷、最悪は焼きつきに繋がる可能性があります。 K6Aでさえ大幅なパワーアップをすると小メタルに対しての負担は相当なものですので、R06Aではさらに厳しくなってくることは容易に想像できます。

これらから考えますと、コンロッドもやはりチューニングに対してのマージンはほとんどないと言っていいのではないでしょうか。 ノーマルはまさに軽量化最優先のギリギリの設計と言えますので、大幅にパワーアップする場合や高回転化を図る場合はコンロッドは強化品に、また、メタルも荷重性能の高いものに交換する必要があるかと思います。

エンジン全体

↑R06Aエンジン全景。 左がNA、右がTURBO。

カットモデルとなっているNAの写真のほうが内部がわかりやすいですが、まず目につくのは細長い点火プラグです。

K6Aエンジンが初期型でφ12×19mm、後期型でφ12×26.5mmなのに対して、R06Aはφ10×26.5mmの細径ロングリーチプラグとなっています。 この理由は、スパークプラグのネジ部を細く、長くすることによってヘッドの燃焼室や排気ポート周辺の冷却水通路を確保しやすくなることでより冷却効率を高め、燃焼室周辺の温度を下げられることでノッキング限界が上がり、結果として圧縮比を高く設定することが可能になることです。

実際、R06Aエンジンの圧縮比はNAで11.0、ターボでも9.1と量産エンジンでなおかつレギュラーガソリン仕様としては非常に高い数値となっています。

この圧縮比ですから、ターボのブーストアップもそんなに大幅にはできないと考えられます。 もちろんハイオクガソリンを使用することを前提としても、仮にノーマルが0.7kくらいのブースト圧だったとしたら、0.9k程度までに留めておいたほうが無難かもしれません。 ですので、もしタービンを大型に換えてよりパワーを求めるなんてチューニングをする場合は圧縮比を落とす必要が出てくるものと思われます。

次に目につくのはカムシャフト駆動がK6Aがローラーチェーンであったのに対して、サイレントチェーンになっていることです。 より静かなエンジンにするために採用されたものでしょうが、サイレントチェーンはローラーチェーンと比べると重く、フリクションロス(摩擦抵抗)が大きいので、純粋な性能面では実はK6Aのローラーチェーンのほうが有利なのです。

それと、オイルパンはすべてアルミダイキャスト製となっています。 これも鉄プレスのオイルパンより軽量なのはもちろん、アルミキャストのほうが音や振動の減衰性能が高いため、オイルパン表面からの放射音低減による静かさを優先した設計によるものです。もちろんアルミ製のため放熱効果も高いです。

ただ、アルミオイルパンはドレンプラグのネジをなめやすいのでオイル交換時は締めすぎないよう注意が必要なのは言うまでもありません。

CGイラストからわかること

補機類の駆動は1本のリブベルトでおこなうサーペンタイン式となっています。 また、NAでは軽自動車エンジンでは初となる吸気、排気両方ともにVVTがついています。 ターボは吸気のみです。

VVTがついているということはこれもECUチューンの対象になると思われますが、VTECなどもそうなのですが、結局いろいろ弄ってみた結果、ノーマルの設定がいちばん良かったということが多いものです。

なお、スロットルも今となっては当然のバイワイヤーの電子制御スロットルとなっているようです。

それと、やはりチューニングという視点から見た場合に不安な点として、どうもNAだけでなくターボのインテークマニホールドも樹脂製となっているように見えます。 これはブーストアップや大型タービンに交換してのハイブーストでの耐久性や強度にかなり問題になるのではないかと思われます。

なお、インマニの長さについては低回転での慣性過給効果を高めるために非常に長い吸気マニホールドとなっていて、実用域のトルク特性重視ということがわかります。 これではあまり高回転域での性能は望めないと思います。 それとサージタンクと呼べる容積もほとんど無いように見えますので、この点についても高回転域での性能についてはあまり期待できそうにありません。 つまり、R06Aはかなり低中速トルクを重視した実用型エンジンということができます。 たしかにノーマルではそれがいちばん大切なことなのですが、チューニングして高回転でのパワーを出したいとなるとすべての面でマイナスになってしまいます。 ですので、本格的にチューニングしたい場合はサージタンクやインマニも造り直さないとならないかもしれません。

今までの点を総合すると、あくまでも私の想像ですが、R06Aエンジンはノーマルタービンブーストアップでは80馬力程度までが限界ではないかと思われます。 仮にタービン交換するにしても、エンジン内部がノーマルのままでは圧縮比の問題やコンロッド、クランクの強度的な不安を考えると100馬力を出すことさえ辛いかもしれません。90馬力程度に抑えておいたほうが良いのではないかと想像します。

もちろん、ただ100馬力を達成するだけならそんなに難しいことではないかもしれませんが、耐久性という意味で考えると辛いのではないかということです。

つまりF6AやK6Aのような感覚で弄ると短期間のうちにトラブル発生となってしまう可能性が高いです。

F6AやK6Aではノーマルの倍ほどのパワーにしても温度管理などをしっかりおこなっていればそう簡単に壊れることはありませんが、もしR06Aで100馬力以上にパワーアップしてなおかつ安心して使いたい場合は、エンジン内部にまで手を入れる必要があるかと思います。

まとめ

ここまで挙げたことはすべて現時点での私の推測でしかありません。 今後、実際にR06Aのチューニングが始まっていけばいろいろと長所、短所が見えてくるものと思います。

ただ、全体としては当然のことながら「環境、省燃費」重視のエンジン設計となっているはずですので、チューンアップ、とくにハイパワー化および高回転化に対してはかなり神経を使わないとならないエンジンでしょう。 それに現時点ではこのR06AエンジンはあくまでもCVTミッションに最適化されて設計、セッティングされているはずですので、これが今後ジムニー等のMT車に積まれるときにはまたいろいろとセッティングや使われる部品が変わってくるものと思います。

たとえばR06Aの最大トルクが9.7kg-mで抑えられているのもCVTミッションの許容トルクを考えてのことだと思います。 もしMTミッションと組合わせる場合はセッティングを変えて10.5~11kg-m程度まで上げてくることは充分考えられます。 ただチューニングに対してのマージンはF6AやK6Aほどはないのは仕方ないことでしょう。

結局、F6AやK6Aの時代はアルトワークスやカプチーノなどのスポーツモデルに搭載することも考えられ、さらにワークスRという競技モデルの存在もありましたので、はじめからエンジンにもある程度のパワーアップできるチューニングの余地が残されて設計されていたのですが、R06Aはそういった走りのモデルに搭載する予定は現時点ではありませんから、チューニングに対しての余裕などという「無駄なぜい肉」はできるだけ削ぎ落とした設計となっているわけです。 これも時代の流れなのでしょう。

<追記> →「R06Aエンジンの考察の続きと新型ジムニー搭載に期待すること」