スパークプラグの接点部などに「銅粉末入りグリス」を塗る効果について

NGKやDENSOなどのスパークプラグメーカーは推奨していませんが、私は昔から点火プラグのネジ部にはカッパーグリス(銅の粉末入りグリス)を塗ってから締めています。

↑このように私は以前から点火プラグのネジ部に銅グリスを塗って装着していますが、この主な理由はあくまでも「ネジのカジリ防止、焼きつき防止、錆びつき防止」であって、銅の粉末(銅パウダー)による電気抵抗の低減効果や熱伝導の向上効果についてはプラシーボ程度の効果しか期待していません。

しかし先日、このようなメールが来ました

↑ここに書かれている「スパークグリス」の存在は私はこのメールで初めて知ったのですが、こういったものをプラグやバッテリーのポールなどに塗ったからといってエンジン性能が向上するなんてことは理論上考えられません。

このメールに対して私が返信した内容は以下の通り

本当は返信するのもバカバカしかったのですが、たまたま時間があったのでこのような文面で返信しました。

あちらさんがこれで納得されたかどうかはわかりませんけどね。

さて、今回の本題である銅粉末入りグリス「スパークグリス」について私の考え

冒頭でも書いた通り、私はこのような商品を知るずっと昔から点火プラグのネジ部に銅粉末グリスを当たり前のように塗っています。ですので、今さらこんなものを誇大に宣伝して売っているなど知りもしませんでした。

ちなみにこの「スパークグリス」は、なんでもヤフオクで流行しているようなので、興味のある方はヤフオクで「スパークグリス」で検索してください。 その謳い文句、効果について書かれていますが、エンジンについて科学的、工学的、電気的な正しい知識をお持ちの方ならきっと呆れて鼻で笑うと思います。

しかし、現実には銅粉末グリスをプラグ接点部に塗ったところで何も変わらない

その理由の主たる理屈は上記の私が返信したメールにも書いていますが、そもそも現在の車やバイクのエンジンに使われているスパークプラグはほとんどが「レジスター入りプラグ」、つまり抵抗入りプラグであり、その電気抵抗値は約5kΩにもなります。

さらに、プラグコードを使用しているエンジンでは、純正のプラグコードは1メートルあたり16kΩもの抵抗があり、さらにディストリビューターを使用しているエンジンではこのデスビ内で回転するローターとターミナルのクリアランス(ギャップ)で空中放電がおこなわれており、これはプラグやプラグコードの抵抗よりはるかに大きな抵抗です。さらに付け加えると、プラグコードを使用しないダイレクトイグニッションコイルも実は内部にスパークノイズ防止のために数kΩもの抵抗が入っているのです。

一見、抵抗がないように見えるダイレクトイグニッションコイルにも実は内部に抵抗体が入っているのです。

要するに私が何を言いたいのかと言うと、もともと点火系にはこれだけ大きな電気抵抗が入っているのに、たかが接点部にグリスを塗った程度の微々たる変化など「焼け石に水にすらならない」ということです。 実際にグリスを塗らない場合と塗った場合とで電気抵抗に変化があるかテスターで測ってみてください。一般的なテスターでは両方ともゼロΩで比較などできないはずです。小数点以下5桁くらいまで測れるような精密なテスターなら数値に変化が現れる可能性はありますが、逆に言えばそんな微々たる差はもともと点火系にある数キロオームという大きな抵抗に比べたら誤差とさえ呼べないほど無意味な差であるということです。

なお、このスパークグリスの海にテスターの端子を入れても電気の流れは検出されません。 そう、このグリス単体では電気は通さないのです。 それもそのはず、そもそも、グリス(油)自体は本来は絶縁体ですので。

なので、なおさらこんなもので電気抵抗が減るという理屈はおかしいのです。 ちなみに、スパークグリスの銅の含有量は21%だそうです。逆に言えば残り8割は油と不純物ということです。 それをヤフオク等の宣伝文面では「99.99%純銅」などと紛らわしい書き方で無知なユーザーをミスリードしているのです。 このスパークグリスがたとえばCPUに塗る熱伝導グリスのように塗布したあとに油分が揮発して銅だけが残るとしても、それはそれで今度は腐蝕を防ぐ効果がなくなってしまいますから、そうなったらこの銅そのものが酸化腐蝕して意味がなくなってしまいますからね。

バッテリーのポールに塗るのも電気的な効果があるとは言えない

バッテリーの端子にこのスパークグリスを塗ると効果があるとも書かれていますが、たしかに接点の腐食を防ぐ意味では効果はあるでしょう。しかし、それによって電気抵抗が減るということは考えられません。 だって考えてみてください、バッテリーのポール端子は銅なんかよりはるかに電気抵抗が大きい「鉛」でできているのですよ?そこに銅グリスを塗ったところで電気抵抗値が変わりますか?まったく馬鹿げている話です。

ならば、プラグコードを低抵抗なものに替えるのも無意味なのか?

これについては、エンジンがノーマルならプラグコードを社外の低抵抗なものに替えてもまず変化は感じられないでしょう。 しかし、エンジンをチューニングしてパワーアップ、とくにターボエンジンでブースト圧を大幅に上げたり、ビッグタービンに交換して空燃比を濃くしたりして燃焼室内の混合気にスパークが飛びにくくなる、いわゆる要求電圧が上がってくると相対的にプラグコードの数キロオームという大きな抵抗が障害になり、うまく着火せずミスファイアーを起こすことがあります。そういう状態のとき、社外の低抵抗なプラグコード、たとえば私が使っている公称値0.5kΩ(実際にはさらに低い)のウルトラ(永井電子)のブルーポイントパワープラグコードなどに交換すると点火性能が劇的に改善され、エンジン本来のポテンシャルが引き出されるのです。

これは私も実体験で経験しているので確かなことで、自信を持って言えます。

↑私が使っているウルトラのブルーポイントパワープラグコード。ノーマルエンジンではほとんど変化は感じられないでしょうが、高度にパワーアップチューニングされたエンジンでは絶大な効果があります。 メーカーの公称値では抵抗値は0.5kΩですが、実際に測ると0.2kΩ台の抵抗しかない、それでいてノイズも発生しない非常に高性能なプラグケーブルです。

↑ウルトラのブルーポイントパワープラグコードの実測での電気抵抗値。 メーカー公称値の0.5kΩを下回る

わずか0.2kΩの抵抗しかありません。それでいてノイズ対策も万全な私のイチオシの高性能プラグコードです。

ならばこのスパークグリスでも効果があるのではないか?

結論から言えば「ありません」。今まで書いてきた文を読めばわかるように、電気抵抗の大きさが桁違いだからです。 プラグコードの場合はたとえば純正で10kΩもあったものを0.5kΩまで「キロオーム単位で」大きく下げるわけですから。それに対して銅グリスによる電気抵抗の低下値は普通のテスターでは測れないほど微々たるものでしかありませんので、科学的にその変化を立証することができないからです。 事実、このスパークグリスを販売している側の説明でも一切、科学的なデータや検証はありません。ただいかにもそれっぽい文章や屁理屈を並べて無知な素人を騙そうとしているようにしか思えません。

<よもやま話> スレッドコンパウンドの微妙な違いでボルトの締め付け軸力が変わる!

これは私が昔からお世話になっているレース兼ストリート用オートバイのチューニングショップのオーナーであるエンジンチューナーが話していたことですが、ここでは通常、コンロッドボルトの締め付け時にはワコーズのスレッドコンパウンドを塗ってボルトを一定のトルクで締め、そのうえでボルトの「伸び」を測定しているのですが、ある時期から同じようにボルトを一定の締め付けトルクで締めてもボルトの伸びが変わってしまったということがあったそうです。 様々な原因を探りましたが、最終的にワコーズに「スレッドコンパウンドの仕様変えましたか?」と聞いたところワコーズから「スレッドコンパウンドの銅粉末の粒子の大きさを変えました」という返事が来たそうで、これが原因だということが判明しました。

↑通常、通しボルトのコンロッドボルトは「伸びの量」で締め付け軸力の管理をします。 しかし、これが非常に繊細で、塗る油やスレッドコンパウンドが微妙に変わっただけでそれまでと同じ締め付けトルクのデータが通用しなくなってしまうのです。 結局のところボルトの締結にとって大事なのは「締めつけトルク」ではなく「締めつけ軸力」ですので、ここを勘違いしないようにしてください。

これについてはまた後日あらためて詳しく記事にして書きたいと思います。

まとめ

以上がスパークグリスをはじめとする銅粉末入りグリスの私の見解です。勘違いしてほしくないのは、私はこれらのグリスを接点に塗ることを否定しているわけではありません。 事実、私もプラグのネジ部に塗っているのですから。 ただ、私が言いたいのはそれはあくまでもネジのカジリ防止や接点の腐食防止、接触不良防止の効果であり、決して電気抵抗低下によるエンジン性能向上するほどの変化は現れないということです。

それと、最後に注意していただきたいのは、プラグのネジ部にグリスを塗ると滑りが良くなるため、規定トルクで締めると締まりすぎてしまうので気をつけてください。この場合、角度法で締めたほうがいいでしょうね。

世の中には様々なオカルトチックな商品がありますが「毒にも薬にもならない」ものであれば、使う使わない

はユーザー自身の考え方、ポリシーで判断していいと思います。今回の銅粉末入りグリスも電気的な効果は疑わしいものの、カジリや焼きつき、錆びつきなどを防止するという意味では間違いなく効果はありますので、適所に使う分には決して悪くないと思います。 とくにカジリやすいステンレスボルトやチタンボルトに塗ってから組むのは効果的だと思います。

なお、とくに高温になるターボエンジンの排気系のボルトに使うには今回のような銅系のグリスでは耐熱温度が不足することがあります(銅系グリスの耐熱有効温度はせいぜい800度まで)ので、そういう箇所にはモリブデン系、あるいはニッケル系の耐熱グリースを使用したほうが効果的です。