軽自動車の合法チューニングとK6Aのボアアップについて

私が去年エンジンオーバーホール兼ファインチューンしたときに「どうせなら排気量も上げてしまえばよかったのに」という意見もいくつか聞かれました。

私もちょうどモンスタースポーツからK6Aの740ccキットというのも出た頃でしたので興味がなかったわけではありませんが、やはり公道で合法的に「軽自動車」として乗るからには最低限のルールは守るべきではないかと思うのです。

たしかに「バレなきゃ別にいいじゃん」という考えもないわけではないとは思いますが、静岡の某チューニングショップが720cc化したF6Aエンジンを軽登録のままで公道で使用することを知ってて販売していたことが摘発されたことをご存知の方も多いと思います。

これはそのショップだけでなく、それを購入したユーザーにも追跡捜査が入っているとのことです。 業者はもちろん当然ユーザーも罰せられるということです。

私も今回のエンジンOH作業を緑整備センター様に依頼していることもあり、もしものことがあったらこのショップさんに迷惑がかかることになりますし、それ以前にまっとうな業者さんなら仮にお客さんからこういう排気量アップを頼まれても「軽登録のままならウチはやらない」と断るのが当然と思います。 それがプロとしてのコンプライアンス精神というものです。

また、上記のモンスターの740ccキットもあくまでも競技専用部品であり、実際、購入時には公道で絶対に使用しないという「誓約書」を書く必要があります。 また、これもご存知の方も多いと思いますが、現在、スズキをはじめメーカーもオーバーサイズピストンの出荷を中止しました。(これには前述した某ショップの摘発がきっかけであったとの噂もあります)

これは、軽自動車は生産時のボア径の時点ですでに660ccギリギリの排気量であり、0.25mmや0.5mmのオーバーサイズでも軽自動車枠の660ccをオーバーしてしまうからです。

以上のように、やはり「黄色ナンバー」で公道で乗り続ける以上は660ccという排気量は守るべきだと私は考えます。

これは個人でならすべて自己責任で済まされることですが、チューニングショップや整備工場の方は絶対に守らなければならないことだと考えます。 「どうせバレないから」などとたかをくくってこういうことをやる人間にプロとしての資格はないと思いますので。

ちなみに、過去に谷田部テストコースでF6Aでは最速となる240km/hオーバーを記録した緑整備センターのカプチーノですが、これは立派な軽自動車規格であり、排気量も660ccのままでした。

しかも約200馬力のこのエンジンに使用したピストンも鍛造ではなく、まったくのノーマル鋳造ピストンだったのです。 もちろん、ピストンの冷却対策は完璧に施し、1周5.5km×数周という過酷な全開走行でもまったく問題ない耐久性を持たせることに成功したのです。 なんでもかんでも排気量アップ、鍛造ピストンなどということをやらなくても、きっちり理論的、科学的な見地でのチューニングとセッティングをすればいたずらに強化しなくても充分耐久性は確保できるものです。

この記録のあと、Kカースポーツのカプチーノがわずか1km/h程度最高速度を塗り替えましたが、あれはF6Bベースでしかも900ccオーバーの排気量、しかもナンバーなしの車両ですから、もはや「軽自動車」ではありません。 純粋に660ccの軽自動車としてはいまだにこの緑整備センターのカプチーノが最速のポジションを維持しています。 しかもそれももう20年近く前の話です。

その他の要素

これと同様にたまに街中でJA11やJB23などの軽登録ジムニーに30mmや50mmとかのオーバーフェンダーをつけて走ってるのを見かけますが、これも立派な違法ですので賢明な方はやるべきではないと思います。

警察もタイヤがボディからはみ出している、いわゆる「ハミタイ」はよく取り締まるのですが、何故かこの「軽ジムニー+オバフェン」については取り締まられてるのを見たことがありません。

これの理由には、警察はあくまでも「道交法」で取り締まるのに対して、このオーバーフェンダーについては「道路運送車両法」の範疇なので取り締まらないと聞いたことがありますが、違法なのは間違いないのですから、このオーバーフェンダーをつけた軽ジムニーもバンバン取り締まっていただきたいと思います。

そもそも軽ジムニーにオーバーフェンダーをつけてマイナスオフセットのホイールをつけて乗るくらいならなんではじめから1300ccのジムニー(シエラ)を買わないのか疑問に思います。

オーバーフェンダーを買う金があるなら1300ccの税金が払えないわけではないでしょうと言いたいし、こういう違法に幅を拡げた軽ジムニーを見ると真面目に1300ccのジムニーに乗ってる人も決していい気分はしないでしょう。

やはり「軽はあくまで軽の枠内で」合法的にチューニングをするべきではないかと思うのです。

同時に、こうしたオーバーフェンダーを売っているショップも販売の際に「軽ジムニーにつけて使用する場合は公道では使用しない」あるいは「きちんと小型車なり普通車なり白ナンバーに登録し直して使用する」旨の誓約書を記入させた上で販売するべきではないかと思うのです。ショップ等の業者の側にもこうした違法性の意識、いわゆるコンプライアンスが薄いんじゃないかという気がしてなりません。

<重要なこととして>

これら排気量のアップや車幅の拡大は単に違法改造、整備不良というだけではなく法的には立派な「脱税行為」なので、とくに軽自動車はただでさえ税制的に優遇を受けているわけですからショップもユーザーもより重大に受け止めるべきだと考えます。 たとえばGT-RのRB26エンジンをボアアップして2.8リッターにするのとは訳が違うのです。

もちろん、高速道路などの有料道路を軽自動車料金で通行することも当然、違反行為となります。

それに、もっとも公道で使用するうえで危惧するのは「事故の際に保険が降りなくなるおそれがある」ということです。 本来軽自動車として登録し安い保険料を納めているのに、その車が法律の定める軽自動車枠をオーバーしていれば保険屋から見れば「虚偽申請(ハッキリ言って詐欺行為)」していたことになりますので、仮に事故を起こして保険請求をしても保険屋は「契約違反」として保険金の支払いを拒否できるのです。 これは任意保険だけでなく自賠責保険にも言えることです。

とくに最近テレビで多く宣伝している「リスク細分型」の格安自動車保険の場合は改造車には非常に厳しいので、これはけっして大袈裟な表現ではありません。

排気量アップやオーバーフェンダーをつけて軽登録のまま乗っている人、または軽登録のまま公道で走ることを知っていてそういう車を作ったり、そういうパーツを販売している無神経なチューニングショップ等の業者はこういった社会的リスクを負うことになるんだということを充分に認識する必要があります。

以上のような理由から、私は排気量についても車体寸法についても合法の範囲内でやるべきと自分で自分にレギュレーションを課しているのです。 だから排気量の増大もしないしオーバーフェンダーもつけていません(フェンダーモールは片側10mmまで合法ですのでつけてますが)。

それというのも法律的な意味とは別に金銭的な理由もあり、車のチューニングというのは自分自身で「ここまで!」という線引きをしておかないと際限なくお金がかかってしまいキリがなく、はじめは自己満足のレベルでスタートしても、次第に他の車との勝負になってしまったりして次第に自分を見失ってしまい、気がついてみたらとんでもない金額がかかっていた…ということになるのが車のチューニング、カスタマイズの落とし穴でもあるからです。 実際、私の知り合いでも400万くらいの車になんだかんだで2000万近くつぎこんでいたという人を知っています。 もちろん本人にそれだけの経済力があればいくら金をかけても構わないのですが、少なくとも軽自動車の場合はどんなに金をかけても得られるリターンはたかが知れています。 だからある程度のところで自分で線引きをしておくのがあとで後悔しないためには必要なのではないかと思います。 車いじりというのは道楽なので上を見たらキリがありませんので、自制心というのはかなり大切なのではないかと思うのです。

K6Aエンジンのボアアップについて

↑私のJA22ジムニーのK6Aエンジンのシリンダーとシリンダースリーブ(ライナー)部。

オープンデッキ+ウェットライナー構造のエンジンはこのライナーの厚みを確保することが非常に重要となります。 それについて以下で私のわかりうる限りで説明いたします。

もしK6Aエンジンを0.5mm以上のボアアップする場合、必ずスリーブ(シリンダーライナー)をワンサイズ大きなもの(オーバーサイズライナー)を製作し打ち替える必要があります。

たとえば2mmとか3mmオーバーサイズのピストンを入れる場合、純正ライナーのままでボーリングすると(そもそもK6Aのライナーはブロックへの圧入部の肉厚がもともと薄いので純正ライナーのままではそこまでボーリングできないとは思いますが)ライナーの肉厚が薄くなりすぎてしまい、ライナーの剛性が弱くなりすぎてハイパワーで全開走行したとき等にライナーが歪んで真円度が狂ったり変型したり首振り振動しこれが結果として圧縮漏れやブローバイガスの増大、最終的にはピストンの焼きつきやヘッドガスケット抜けの原因になりエンジンブローします。

これは強化メタルガスケットを入れても同じことで、せっかくの強化ビードのメタルガスケットを入れても、ライナーの剛性が落ちてしまったらそのガスケットを押さえつける力(面圧)自体が弱くなってしまうので強化ガスケットの意味がありません。

この理由はK6Aエンジンの構造を考えればすぐわかることですが、K6Aはウェットライナーのオープンデッキ構造です。 要するにライナーはブロックとヘッドに挟まれているだけで押えられているだけですので、ライナー本体の円筒方向の剛性が非常に重要なのです。 ボーリングしてライナーの肉厚が薄くなるとこの剛性が不足し、極端な表現をするとライナーがツヅミ形や樽形に変型してしまい、結果としてヘッドガスケットのビード部の面圧が落ちることで、最終的には燃焼ガスが漏れてヘッドガスケットが吹き抜けてしまうということです。

理論上の計算では、金属材料の剛性というのはそのモノの厚みの三乗に比例して上下しますのでたとえば純正ライナーの厚みを5mmと仮定します。 これをボアを1mm拡げるために10%薄くして4.5mmにした場合、0.9^3≒0.7となるわけで、僅か0.5mm削っただけでもライナーの剛性は実に30%も低下してしまうのです。 同様にボアを2mm拡大時になると半分の50%にまで低下、さらにボアを3mm拡大するとなんとノーマルの僅か35%の剛性しかなくなってしまうのです。

これではとてもハイパワー運転時の耐久性など確保できるわけがありません。 おそらくシリンダーは歪みまくり、燃焼ガスの吹き抜け、ヘッドガスケットは抜け、最悪はライナーが割れてしまうこともあり得ます。

このように「ほんの1~2ミリのボアアップ」でも想像以上にシリンダーライナーの剛性というのは大幅に低下してしまうので、K6Aエンジンのノーマルライナーでのボアアップは安易に行うと確実に痛い目をみることになることは容易に想像できます。

まだノーマル+α程度の馬力なら問題ないでしょうが、たとえば100PS、130PSと大幅にパワーアップチューニングして、その全開走行をくり返していると間違いなくこういった部分の耐久性に問題が出るでしょう。 とくにK6Aのような直列3気筒エンジンでは熱的に辛い2番シリンダーがはじめにトラブる率が高いです。 最初のうちはいいけれど、フルパワーの全開走行をくり返していると短時間のうちに前述したトラブルが出ることは容易に想像できます。

ちなみに純正オーバーサイズは最大0.5mmですが、これに合わせてシリンダーボーリングしただけでも上記計算上でライナー剛性はスタンダードサイズの15%ダウンとなりますので、現実的にはこれが強度上の限界ではないかと思います。 しかしこれでもハイパワーチューンを考えるとちょっと不安になるくらいなので、耐久性を第一に考えればK6Aの場合はオーバーサイズは使用せずスタンダード(STD)サイズのピストンを使用するのがもっとも安全なチューニングということになるのです。 つまり、あえてOSは使用せずに660ccのままに抑えてチューニングしたほうがストリートチューンでは長期に渡る耐久性が確保しやすいと言えるのです。

なので、もしK6Aエンジンをボアアップする場合は、ライナーはノーマルと同じ肉厚を確保できるよう鋳鉄材(できればFCD材)で作り直すことが必要になるのです。 オープンデッキのK6AのボアアップはクローズドデッキのF6Aと同じような感覚では簡単にはいかないということです。

(もっとも、クローズドデッキのブロックでもボーリングすれば強度低下するのは同じですが)

上記で書いたモンスタースポーツの740ccキットもちゃんと専用のシリンダーライナーに入れ替えておこなうようになっています。(もちろんブロック側のライナー挿入穴も拡大加工が必要)

そういう意味からK6Aを大幅にパワーアップしたい場合は、「適当に流用できそうなピストンがあったから安直にノーマルライナーをボーリングして安価にボアアップしよう」などとは考えず、きちんと再設計したオーバーサイズライナーを製作し、ブロック穴も加工することが必要です。

それでなければ多少金額は張っても、上記モンスターの740ccキットなど、真面目にテストして開発された専用のキットを使用して手堅く排気量アップするのがもっとも安全、確実でしょう。

ちなみにライナーの厚みが逆に厚すぎる場合の弊害としては、シリンダー上部の放熱が悪化することで燃焼室やピストンからの冷却が悪くなってノッキングの原因になったりすることがあります。 これはライナーの素材である鋳鉄は当然ながらアルミに比べ熱伝導率が悪いので燃焼室やピストンからの熱が冷却水(ウォータージャケット)に逃げにくくなるためです。 一例ですが、GT-RのRB26エンジンの通称「GTブロック」は標準ブロックやN1ブロックよりもシリンダーからウォータージャケットまでの肉厚が厚い(つまりオープンデッキで言えばライナーが厚い)のですが、そのために強度や剛性は高いのですが、冷却、とくにシリンダー上部の冷却が悪いのが欠点だそうです。 シリンダーライナーは剛性と放熱性能のバランスでちょうどいい厚みをみつけないとならないということです。

蛇足ですが

以前、ロータスエリーゼのK18エンジンのオーバーホールに立ち会ったことがあったのですが、このエンジンはK6A以上に華奢なオープンデッキで、ライナーが圧入ではなくブロックの穴にただ差し込まれているだけなのです。 しかもライナーの厚みも非常に薄くものすごい限界設計のエンジンでした。 どうももともと1400ccだったエンジンをむりやり1800ccまで拡大したのがこの無理のある設計の原因だったようで、当然ながらヘッドガスケット抜け、水漏れなどは当たり前のようにトラブルとして出ていたようです。 結局、ライナーが踊らないようにライナーとブロックの間に「コマ」を圧入して擬似的にアッパーデッキを作ったような感じにしてライナーをできるだけ固定し、メタルガスケットを載せて対処することでかなり改善されたようです。

NAだからまだもっていたようですが、ターボならまずもたないでしょうね。 やはり薄すぎるライナー(スリーブ)はトラブルの元です。K6Aでもそれは同じですので気をつけるべきです。

レースなら「1レースもてばいいから」ということでエンジンライフを割りきって、ライナーの厚みをギリギリまで落としても冷却を優先するなど少し無理のあるチューニングもできますが、ストリートチューンではやはりできるだけ耐久性を重視したうえでパワーやトルクとのバランスを考えてうまくチューニングするのが賢明かと思います。

↑K6Aエンジン。 各ライナー間には必ず数ミリの隙間を設け、その間を冷却水が通り抜けられるようにすることもターボのハイパワーエンジンでは冷却上重要なポイントです。

<補足事項> シリンダーライナーの素材について

シリンダーライナーには一般的には鋳鉄(FC材)が使われますが、なぜ鋳鉄が適しているかという理由として、まず鋳鉄はその素材に炭素(カーボン)が約3%と非常に多く含まれていて、その炭素が黒鉛(カーボングラファイト)というかたちで存在(析出)しています。

この黒鉛はそれ自体が固体潤滑剤として使用されるほど自己潤滑性のある素材なので、これが含まれる鋳鉄というのは非常に「滑りのいい」材料であり、仮に油膜が切れて金属同士が直接接触してもすぐにはカジったり焼きつきにくいという特性があるため、シリンダーライナーによく使用されるのです。 この鋳鉄にももちろんいくつか種類があり、一般的な鋳鉄であるFC材、黒鉛が球状をしていて粘りがあり割れにくいFCD材(別名ダクタイル鋳鉄)、その中間であるCV鋳鉄などがあり、それぞれ強度別に数字でいくつもの種類にわかれています。 また、鋳鉄は振動減衰特性、いわゆる制振性が高いことも特徴で、これはエンジンの騒音や振動を減らす効果もあります。

ただし、レーシングエンジンのようにとくに放熱性(熱伝導性)が強く求められる場合は、より熱伝導の良いアルミライナーが用いられます。 この場合はアルミですからそのままでは摩耗が激しいため、特殊なニッケル複合高硬度メッキ(ニカジルメッキ等)が表面に施されることが多いです。

<追記> K6Aエンジン用830ccKITが発売されました!

JUN MACHINE SHOP(田中工業)からK6Aエンジン用の「830ccキット」が発売されました。

今のところ適合が確認されているのはMC21SのワゴンRだけのようですが、同じK6Aエンジンを積む他の車種にも適合すると思われますし、加工や積み替えによって使用できる車種もあるかと思います。 ピストンやコンロッド、シリンダーライナー(スリーブ)はどのK6Aエンジンでも使えると思いますが、問題はクランクシャフトでしょうね。 これがそのまま使えるかがネックになるかと思います。

このキットで個人的に好感を持てるのはコンロッドが「I断面」であることですね。私は持論として「H断面コンロッドにメリットなし。コンロッドはI断面が応力分散の点でベストである。

とくにトルクの高いターボエンジンには絶対I断面を使用すべき」と考えていますので。

キット価格は66万と「軽自動車のパーツとしては」決して安くはありませんし、シリンダーブロックの加工も必要になるので組み込み工賃なども含めると100万オーバーは確実だと思いますのでかなり勇気のいるチューニングになりますが、興味深いキットではあります。

私も過去にF6Aとかで720ccとかは乗ったことはありますが、この程度では660ccと比べても圧倒的な差は感じられませんでしたが、さすがに「プラス170cc」となるとかなり変わってくるでしょうね。

ただ、低速トルクに余裕が出るぶん、高回転が回り辛くなる可能性と、あとは各部の耐久性が心配なところでしょうか。

詳細はメーカーサイトにて →http://www.junauto.co.jp/machineshop/pnews000174.html

なお、言うまでもありませんがこのキットを組んで公道で使用する場合はきちんと「白ナンバー」の小型登録車として使用しましょう。