エキゾーストマニホールドへの耐熱バンテージ巻きのメリットとデメリット

少し前にK6Aエンジンの車外エキマニについての記事を書きましたが、そこで少しだけ耐熱バンテージを巻くことへの効果と理由、そして弊害についても軽く触れました。 しかし、意外にもこのエキマニへのバンテージ巻きの効果に疑問を持つ人も多く、巻くべきかどうか悩んでいるという相談がいくつかきたので、今回は、今までの私の経験と考え、そして実際には必要なのかどうなのか?について書いてみたいと思います。

まずはエキマニにサーモバンテージを巻くことの性能的意味について

エンジンの排気ポートから出た排気ガスの温度は高負荷時でNAで700度から800度、ターボでは850度から1000度にもなります。 つまり排気ガスというのは「まだ仕事ができるだけの熱エネルギーを持ったまま捨てられてしまう」わけです。 この高温高圧の排気ガスをエンジンの性能向上にできるだけ活かすため、NA(自然吸気エンジン)では無駄な排圧(排気抵抗)を生じさせない程度に流速を向上させ、それによりイジェクター効果、つまり排気ガス自身のもつ質量によって生じる排気慣性効果によってシリンダーから残留排気ガスを吸い出すことで、シリンダー内に新気(混合気)をより多く取り込み、結果、トルクアップ、パワーアップにつなげるわけです。 また、各気筒のパイプ集合部ではそれぞれの気筒から出た排気ガスの流れの後方に生じる負圧により他のシリンダーから出た排気ガスを吸い出す効果、いわゆるアスピレーター効果によりさらに排気を吸い出す効果を高め、そのぶん新気をシリンダー内に吸い込み、混合気の充填効率を向上させエンジン性能を向上させるわけです。 さらにターボエンジンではこれはNA以上に重要で、排気ポートから出た高温高圧のガスでタービンホイールを回転させるという「大仕事」をさせなければなりません。

そのためにも、排気ガスには高温高圧のエネルギーを持ったままエキマニを流れてくれないと困るわけです。その「保温効果」にサーモバンテージが一役かってくれるわけです。

ターボチャージャーというのは、言わば「本来は捨てられてしまうだけの排ガスの持つ熱と圧力のエネルギーの一部を回収し、それをエンジンの吸気充填効率の向上に利用するというリサイクルシステムのようなもの」なのです。サーモバンテージはそのエネルギーのロスを最小限にする手助けをするために役立つのです。

しかし本当に効果があるなら市販車やレーシングカーでも採用されているはずでは?

サーモバンテージについて多くの方がまずいちばんに疑問に感じるのはここでしょう。 たしかに本格的なレーシングエンジンを見ても「熱害を防ぐ」以外の意味でエキマニやエキゾーストパイプにサーモバンデージを巻いている例はほとんどありません。

↑史上最強のF1ターボエンジン、ホンダRA166E。このエキマニにもバンテージなどは巻かれていません。

↑日産のグループCマシン、VRH35Zターボエンジン。このエキマニにも当然バンテージは巻かれていません。

まぁ、これらのエンジンは純粋なレーシングエンジン、しかもターボエンジンなので、市販のチューニングエンジンより常用時の排気温度が非常に高く1100度をはるかに超えるので、いくら耐熱性に優れた材質である「インコネル(耐蝕耐熱超合金)」を材質に使っているからといっても、下手に断熱して保温するようなことをしてしまうと局部的にオーバーヒート、いわゆるヒートスポットが生じ、かえって高温強度の低下を招き、クラック、割れなどの無用なトラブルの原因になりかねないという理由があります。 実際、F1のエンジンではレース中にエキマニが割れるなんてことは珍らしいことではありませんでした。

では市販車ではなぜ採用されないのか?

もし耐熱バンテージを巻くことで排気エネルギーを落とさずに排気の流速を高め、結果、排気のイジェクター効果(排気を吸い出す効果)やアスピレーター効果(他の気筒の排気を吸い出す効果)によってエンジン性能が高まるのであれば、市販車でも高級スポーツカーなどで採用されていてもいいのでは?と疑問に感じるのは当然でしょう。 しかし、バンテージには弱点もあって、ハッキリ言って「あまり耐久性がなく、数年もするとボロボロになる」という問題と「材質であるガラス繊維が大量に飛散するとアスベスト並みの環境問題になる」という危険性、さらに「見た目があまり良くない」という商品的価値にとってマイナスになる側面もあるのです。

とくに美しく曲げられた高性能NAエンジンの「タコアシ」はそれだけで芸術品とも言えるものですので、それを「醜悪な」見た目にしてしまうのはエンジン性能以前の商品価値の低下になってしまいます。

↑ゾンダのエンジンルームの写真ですが、どうです?機能美というか、本当に機械としての美しさに溢れていますよね。これに耐熱バンテージなんか巻いたらその美しさが半減してしまうでしょう。スーパーカーにはそういうメカニカルな魅力も大変大切なものと私は思います。

よく「フェラーリやポルシェなどの高級車にも採用されないのがバンテージの効果がないことを証明している」的な意見も見ますが、高級車だからってコスト度外視で作ってるわけではありません。よく「フェラーリはF1レースをやるために市販車を売っている」と言われてますが、その通りでむしろ高級車ほど利益率にはシビアで、採算の合わないようなことはやらないものです。あの3750万円、500台限定のレクサスLF Aでさえエキマニにインコネルを採用できずステンレスで妥協したくらいですからね。 そういう意味では高級スポーツカーも大衆車も軽自動車も市販車である以上はコストに対する考え方は何も変わらないのです。 むしろ少数生産車だからこそ高い利益率を出さなければいけないと考えるべきでしょう。

↑レクサスLF AのV10-4.8リッター1LR-GUEエンジンのエキマニ部。プロトタイプではインコネルも試されたらしいですが、最終的に市販バージョンはステンレス製とされました。なお、マフラーはすべてチタン製です。

結局、サーモバンテージを巻くとエンジン性能は上がるのか下がるのか?

これはNA(自然吸気エンジン)とターボエンジンではまた少し考え方が変わりますが、一般的なチューニングエンジンの場合、ターボはエキマニを保温することでタービンホイールへ高い排気のエネルギーをぶつけることができるため、より低回転からブーストを立ち上げることができるというメリットがあります。 また、最高出力も若干ながら上昇することが過去にシャーシダイナモでのテストでも確認しております(以前にEA11RカプチーノのTD04仕様で最大10PSの馬力向上が認められました)。

対してNAエンジンの場合は正直ターボエンジンほどは大きな効果は得にくいでしょう。大幅にトルクが上がるとか、最高出力が目に見えて上がるとかは期待しないほうがいいです。これはやはり排気ガスの絶対温度がターボより低いことから、排気の流速が遅い、つまり排気ガスのもつエネルギーが低いためです。ですので、NAエンジンの場合はエキマニにバンテージを巻く主な目的はトルク特性に変化を与えることが主目的だと考えたほうがいいでしょう。

オートバイでも、とくに2ストエンジンのチャンバーのエンジンに近い部分にバンテージを巻いてその巻く長さでトルク特性のチューニングの微調整をしていましたからね。

バンテージを巻くとかえって性能ダウンになると言う人もいますが

バンテージによって排気ガスの温度を高く保つと、高温高圧のガスは粘性が高まるため、かえって排気抵抗になり性能ダウンするはずだと見当違いなことを言う人がいます。ですが、それは排気ポート壁面を滑らかに仕上げたり、排気パイプを一回り径を太くするなどいくらでも解決方法はあります。エンジンは総合機械なのですから、どこか一部分だけを見て考えず、いかにメリットを引き出し、デメリットを最小限にするかをトータルで考えなければなりません。それができてこその「チューニング」なのですから。

バンテージ以外にもセラミックコーティングによる断熱、遮熱方法もある

↑これはセラミックコーティングされたエキマニです。効果や狙いはバンテージとほぼ同じです。前述したゾンダの写真でもエキパイが白くなっていますが、おそらくこれと同様のコーティングがされているものと思われます。F1のエンジンでも同様の「白いエキマニ」を見たことがあります。

私が乗っていた(乗っている)車に施していたサーモバンテージの例

↑これは私が過去に乗っていたHP10改プリメーラオーテックバージョンの写真です。 見てのように等長エキマニにサーモバンテージを巻いていました。これのみの効果ではありませんが、ECUリセッティングと合わせて10PS以上パワーアップし、カタログデータの180PSを上回るパワーを発揮しました。また、低回転からのトルクアップ効果もありました。 その後、排気系のチューニングにより最終的にはほぼリッターあたり100馬力を出すまでに至りましたね。2リッターNAとしてはかなりパワーが出ていたほうだと思います。

↑これは私の現在のJA22ジムニーのターボアウトレットパイプ。 私のK6Aターボエンジンはエキマニは純正部品を加工し最後にタフトライド処理を施したものを、トライフォース社製ターボアウトレットパイプにはサーモバンテージを巻いて使用しています。このバンテージは排気性能向上を狙ってというより熱害防止の意味のほうが大きいですね。

サーモバンテージの効果まとめ

まず、エキマニにサーモバンテージを巻くことのメリット

1)エンジンルームの熱害防止、吸気温度の低下など

2)ターボの立ち上がり向上、NAでは低速トルクの向上

3)最高出力の向上(ただし微々たるもの)

4)若干だが、排気音量の低下が期待できる

次に、エキマニにサーモバンテージを巻くことのデメリット

1)エキマニの寿命低下(割れ、クラックの発生)

2)場合によってはECUのリセッティングが必要になる

3)案外寿命が短いので、定期的に巻き直しが必要

4)主観的なものだが、見た目があまり良くない

…大雑把にまとめるとこんなところでしょうか。

↑やはり、バンテージを巻くべきかどうか最大の悩みどころはエキマニの割れなどの耐久性の低下にあるでしょう。 NAではまず問題はないと思いますが、ターボエンジンではこれは非常に悩ましいところです。もっとも、バンテージを巻かなくても割れるときは割れるので、これは「宿命」として受け入れるしかないと割り切ることも大切なのかもしれませんが。

私のJA22Wジムニーのエキマニは今後どうするか?

↑私も今のところは現在の純正加工&タフトライドエキマニで満足はしていますが、もしお金に余裕ができて社外エキマニに替えるなんてことになったら、バンテージを巻くかどうか非常に悩むでしょうね。とりあえずタフトライド(イソナイト)だけはかけると思いますが。 つまり、エキマニへのサーモバンテージ巻きは私自身でもまだ「答え」は出ていないのが実情です。 以前にも書きましたが、市販の社外エキマニの材質であるステンレスSUS304程度ではターボエンジンの排気温度に充分な対応ができないのに、そこにさらに高温化を助長するサーモバンテージを巻くことはエキマニの寿命低下を招くだけですからね。 熱害を遮蔽したいだけならヒートシールド(遮熱板)だけでも充分ことは足りますから。

↑モンスタースポーツ製のK6Aエンジン用エキマニ。このようなロストワックス精密鋳造製のエキマニなら肉厚もあり保温性も高いのでサーモバンテージを巻く必要はないでしょう。 ただこの製品、旧規格のK6Aエンジン用には適合していないのが残念なところです。ぜひ旧規格K6A用もラインナップに加えてほしいところですね。