K6Aエンジンのシリンダーライナー首振り振動対策について

スズキK6Aエンジンの「最大の弱点」はなんと言ってもシリンダーブロックがF6Aのようなクローズドデッキではなくウェットライナーのオープンデッキ構造であることにあります。

↑K6Aエンジンのウェットライナー、オープンデッキ構造。 アルミ製シリンダーブロックに鋳鉄製シリンダーライナー(スリーブ)が圧入された構造となっています。

この構造はライナー上端部全周が冷却水に晒されるため、燃焼室付近の冷却性が高く、ノッキングやオーバーヒートには強いのですが、反面、ライナー上端部を物理的に支える「支柱」となる部材がないため、どうしてもチューニングしてパワーアップ、トルクアップしていくとシリンダーライナーが「首振り振動」を起こしてしまう「剛性不足」になるという欠点があります。

↑オープンデッキのシリンダーブロックとクローズドデッキのシリンダーブロックのそれぞれの特徴。

K6Aのようなオープンデッキ構造は燃焼室周りの冷却性についてはクローズドデッキよりも有利なのですが、チューニングしてパワーアップしていくと、あるレベルになると剛性不足によって振動し、ヘッドガスケットの吹き抜けなどのトラブルを生じることがあるのが欠点です。 今回は、それに対する「シリンダーライナー強化策」の例をいくつか取りあげたいと思います。

ヘッド、ブロックを精密面研して強化ヘッドガスケットを使用する方法

これがもっともシンプルでポピュラーな「正攻法」でしょう。私のK6Aエンジンもこの方法で組み上げてあります。

↑これは私のエンジンですが、整備書の平面度(0.03mm)などとは関係なく、とにかく平面度を1/1000mm単位まで追い込んで精度を出すとともに、面粗度(研磨面の粗さ)を鏡面に近いくらいまで上げてヘッドガスケットとの「密着性」を限界まで引き上げてあります。とくに私のエンジンの場合はヘッドは通常のフライス盤ではなく、平面研磨機にて研磨加工してありますので、面精度、面粗度ともにケタ違いに高精度になっています。 もちろん、それと同時にヘッドガスケットも純正品ではなく社外品の強化メタルガスケットにします。 それによりシリンダーヘッド、メタルガスケット、シリンダーブロックの接合面の面圧を上げるとともに均一化し、より「一体化」させることによりエンジン全体の剛性アップを狙うわけです。

↑私のエンジンに使っているモンスタースポーツ製の強化メタルヘッドガスケット(0.7mm厚)。

K6Aエンジンは純正でもメタルガスケットを使用していますが、純正品はメタル材の両面に柔らかいラバーのシール層が貼ってあり、ここが弱く案外と簡単に吹き抜けてしまう弱点があります。

さらにこのゴムラバー層は熱伝導を悪化させ、オーバーヒートやノッキングの原因にもなります。

それに対して強化メタルガスケットはラバー層を使用せず、モリブデンコーティングのような極薄のシール層で強化されており、また、各シーリング部のビードも強化されていて、なおかつ熱伝導も良いため、ノッキングやオーバーヒートに強く、前述したように精度良く面研したヘッドとブロックをガッチリ固定することができるため、エンジン全体の剛性が格段に向上するのです。

K6Aエンジンをチューニングするにはこのモンスタースポーツ製強化メタルヘッドガスケットは「絶対必要不可欠なパーツ」です。

↑これはK6A純正のメタルガスケット。 メタルとは言っても純正ガスケットは両面にゴムでできたシール層が貼ってあるため、ここが弱くて吹き抜けるのです。さらに、このゴムの層は熱伝導も悪化させます。だからK6Aのパワーアップチューニングには強化メタルヘッドガスケットが必須なのです。

これは何もスズキのエンジンだけでなくどこのメーカーの純正メタルガスケットにも言えることです。

いずれにしても鍵となるのは「面研の精度」にありますので、高い精度でブロック上面とヘッド下面の精度、粗度を究極まで追い込んで研磨加工することが大前提です。 純正の粗い削り面のままで強化メタルガスケットを組んでもそのポテンシャルを充分に活かせません。 私の個人的な見解ではこの「高精度面研+強化メタルヘッドガスケット」という方法でも150PSから180PSくらいまでは充分問題なくいけると思います。

私のエンジンでも、HT07-A/R12スペシャルハイフロータービン+HB21SアルトワークスRカム仕様で試しにブーストを最大1.8kg/cm^2まで上げて連続全開走行したことがありますが、まったく問題は発生しませんでした。もちろん、普段のブースト圧は1.3kg/cm^2から1.5kg/cm^2までで抑えていますので全然余裕です。

シリンダーライナーとブロックを「コマ」で固定する方法

これは日産のVQエンジンなどではよくおこなわれている方法で、円柱状のコマをライナーとブロック間に軽圧入して、冷却性を確保しながら同時に結合剛性を高めようとする方法です。

↑このようにライナーとブロックにエンドミルでコマの入る穴を加工し、軽い圧入程度になるように円柱状のコマを挿入します。 当然ながらヘッドガスケットの冷却水水路を塞いでしまわないようにヘッドガスケットの水穴と重ならないような箇所に配置します。この方法のメリットは、オープンデッキの優位性である燃焼室付近の冷却性を損なうことなく、剛性アップを図れることです。 ただ、注意しなければならないのは、このコマの圧入具合で、ガタガタではもちろん無意味ですし、かと言ってキツすぎるとライナーが熱膨張したときにシリンダーの真円度が悪化し歪んでしまう可能性があります。

ですので、このコマを「緩すぎず、キツすぎず」に加工する加減にノウハウが必要となります。 この方法ならうまくやれば200馬力オーバーでも充分いけるのではないでしょうか。

完全なアッパーデッキを作って固定してしまう方法

これは私も過去にロータスのエリーゼ(エキシージ)のローバー製18K型エンジンでやった経験があるのですが、このエリーゼのエンジンはK6Aよりはるかにライナー厚が薄く、なおかつブロックに圧入ではなくただはめてあるだけでグラグラでした。 そこで「アッパーデッキを製作して上部を固定してしまおう」となった訳で、実際、この方法と強化メタルガスケットによってそれまで問題となっていた、ヘッドガスケットの吹き抜けが解消したという経験があります。 この方法はK6Aエンジンにも当然、適用できます。

↑青森にあるトライバルというショップがオリジナルで製作しているK6Aエンジン用アッパーデッキ。

どの程度の圧入代なのかは不明ですし、製品精度も不明ですが、剛性を上げるアイデアとしてはある意味で「究極の方法」と言えます。 しかし、この方法は重大な欠点もあり、まず、アッパーデッキの厚みぶんライナーが直接冷却水に触れなくなることから、燃焼室付近の冷却性、放熱性が悪化し、オーバーヒートやノッキングの原因になりやすくなるということです。それに、このトライバル製のアッパーデッキは見るからに冷却水の通る水穴が小さく、これではブロックからヘッドに流れる冷却水の流量が減少してしまうため、それこそオーバーヒートやノッキングのリスクが高くなります。

ですので、この水穴をヘッドガスケットの水穴に合わせて拡大してやる必要があります。

↑このモンスタースポーツのヘッドガスケットを見てもわかるように、ヘッドガスケットの水穴はただ無造作にあいているわけではなく、1番シリンダー、2番シリンダー、3番シリンダーそれぞれ水穴の大きさが違うことからも解るように、各シリンダーが均等に冷却できるように冷却水(LLC)の配分が考えられて微妙に穴の大きさや配置が決められて設計されています。 当然、アッパーデッキの水穴もこのヘッドガスケットの水穴とまったく同じ大きさ、配置になるようにしなければシリンダーヘッドの冷却に大きな問題が生じてしまうのです。 残念ながらトライバルのアッパーデッキはこのあたりのことがまったく考えられていないのです。エンジン屋の目から見ればあまりに無知すぎます。

↑剛性だけを考えればほぼパーフェクトな構造ですが、ヘッドや燃焼室、シリンダー上部の冷却性に難ありという問題があることを忘れてはいけません。 シリンダーはその上部20mmほどの冷却性がたいへん重要なのですから。 ですので、この方法での限界出力はその冷却性次第となります。

剛性、強度的な側面だけから考えれば充分200馬力オーバーは可能ですが、冷却性で問題が出た場合は150馬力程度までしか上げられない可能性もあります。 ちなみに、エンジンへの冷却水配分の基本は「ヘッド8:ブロック2」というのが昔からの定説です。それだけシリンダーヘッドには大量の冷却水を送る必要があるのです。とくに燃焼温度および排気温度が非常に高いターボエンジンでは燃焼室周辺と排気バルブ、排気ポート周りには大量に冷却水を循環させてやる必要があります。 ですので、このトライバル製のアッパーデッキの水穴の大きさでは絶対的に冷却水の通る穴の面積が不足しており、ヘッドのオーバーヒートおよびノッキングやデトネーションの原因になります。トライバルさんにはこのあたりをきちんとエンジン設計の基本から勉強して製作していただきたいものです。 ですので、現時点ではこの点が改善されない限り私はこのトライバル製のアッパーデッキはお薦めはできません。

以上、3パターンのK6Aエンジンのライナー強化方法を検証してみましたが、どれも一長一短であることはよく解ると思います。  私個人としてはたしかにトライバルのアッパーデッキ方法というのは剛性面で魅力的ですが、冷却性とのバランスを考えると、2番目に挙げたコマを挿入する方法が剛性と冷却を両立できるので良いかなと考えています。 重要なのは「剛性」と「冷却性」をどう両立させるかということにあります。どちらか片方だけを見ていたのでは文字通り「片手落ち」です。

ただ、どの方法にも共通して言えることはやはり「加工精度」が鍵となるということです。 どちらにしてもこれらの精密加工は内燃機屋さんでないと加工できませんから、加工する業者の技術、設備、腕によってその結果は大きく変わってくると思います。信頼できる加工屋さんであれば好結果が期待できますが、ヘボな加工屋さんだと逆効果になってしまう危険性も高いわけです。 K6Aエンジンは非常にデリケートなチューニングを必要とするエンジンなので、このあたり業者選びはくれぐれも慎重に。

↑通常のK6Aチューニングでは、1番目の方法、つまり精密面研と強化メタルヘッドガスケットで充分いけると思います。 ただし、くり返しになりますがくれぐれも「きちんとした精度を出せる信頼できる加工業者に依頼する」ことが最重要です。ミクロンオーダーで加工できる設備と技術を持った機械加工屋さんでないとこの精度は出せませんので。 内燃機屋ならどこでも加工できるわけではありません。

なお、この強化メタルヘッドガスケットの場合、ヘッドボルトの最終締め付けトルクは純正の600kg-cmから700kg-cmに上げることがポイントです。これはモンスタースポーツの説明書にも書かれています。

↑早いもので私のJA22ジムニーのK6Aエンジンもオーバーホール兼ファインチューンしてから4年が経過しました。その後も少しづつ改良や変更はしていますが、エンジン本体、タービン共に絶好調です。