シェブロンディフューザーの音量低減効果テスト

シェブロンノズルというのをご存知でしょうか。 最新鋭のボーイングの旅客機B787のエンジンナセルに採用されている山形の「ギザギザ」で、ジェットエンジンの排気騒音(ミキシングノイズ)を低減する効果があるということです。

↑B787のロールスロイス社製ターボファンエンジンのファン部のナセル後端に刻まれた三角形のギザギザがシェブロンノズルです。 この他にも内側のジェットエンジン本体部のノズルにもシェブロンがついているものもあるそうです。

シェブロンノズルの原理と効果

正直いって私には詳しくはわかりません。 ただ、小さな凹凸をつけるということから考え方としてはボーテックスジェネレーター(ボルテックスジェネレーター)と同様、小さな渦を作るものだと思います。

小さな突起によって極小の渦をつくり、そこでジェット出口から出た高速、高圧の排気が一気に膨脹拡散するのを撹拌し、少しでも穏やかに外気と混合するようにして騒音を抑制しようというものだと考えます。

今回は、この考えをそのまま車のマフラーからの排気に応用し、排気口から出る騒音(排気音)を少しでも低減する効果があるかどうかを自作して実験してみようというわけです。

もしこれで排気音が本当に低下するのなら、排気抵抗を増やさずに静かにできそうで面白いと思いまして。

製作

材料はホームセンターに売っているA1050純アルミ板0.5t。 それをマフラーカッター出口径の周長(私のMRSマフラーの場合はφ76.3なので76.3×πで239.7mm)に合わせて切り、適当にギザギザをつけます。 このギザギザの大きさはどのくらいが適切なのか理論的なものはわからないので、本当に勘で10ケ所等分につけました。 見た目は大きな「バラン」という感じですね(笑)

それを適当な空き缶に巻きつけてRをつけて円型にします。 あくまで試作品ですのでこれで完成です。

装着

今までつけていたチタン製マフラーカッターを外し、今回製作した試作シェブロンディフューザーをつけました。 取り付けはステンレスホースバンドで締めただけです。 見た目は「サメの歯」みたいでユニークです。 決してカッコよくはないですが、なんか意味ありげには見えます。

↑今までつけていたチタン製マフラーカッターを外し、今回製作した試作シェブロンディフューザーをつけました。 取り付けはステンレスホースバンドで締めただけです。 見た目は「サメの歯」みたいでユニークです。 決してカッコよくはないですが、なんか意味ありげには見えます。

インプレッション

まずアイドリングですが、これといって変わった気はしないです。 まぁ、こんなもんでそう簡単に音量が低減できたらマフラーメーカーさんだって苦労はしないでしょうから。

さっそく走り出しての体感ですが、音量自体にそんなに大きな違いは感じないものの、もっとも耳障りな重低音の「ボボボボ…」という不快な低い周波数の音が低減されたような気がします。

とくに住宅街の細い道、両側が壁に囲まれたところを窓を開けて走ると壁に音が反響してかなり五月蝿く感じるのですが、そういった状況ではわりと違いを感じます。

とにかく「聴覚的には」僅かながら静かになった気がするのですが、これだけではプラシーボ効果だと思われても仕方ないレベルかと思います。 そこで「ぜひ数値で確認してみたい」と思いました。

騒音計(サウンドレベルメーター)での簡易近接騒音測定

中国製の安物ですが、騒音計を買ってしまいました。 まぁ、2000円の超廉価モデルなので精度はまったく信用できない(JIS規格を通ってないので正式な公正試験には使用できない)機種ですが、販売元でいちおうの校正はしてあるらしいです。 今回は音量の「絶対値」ではなくシェブロンの有無による「相対値」がわかればいいので、このような安価なおもちゃレベルのものでも問題ないでしょう。

計測

計測は基本的に正式な近接騒音試験の条件に従い、可能な限り法律に準じた方法でおこないました。

近接騒音の計測条件は上の写真のように、マフラー出口の方向から外側に45度の角度で0.5メートルの距離に騒音計(マイクロホン)を設置します。 高さはマフラー出口中心と同じ高さに調整します。

私はリジッドラック(ウマ)に乗せました。

周囲には壁など反響するものがなく、風速は5メートル以下の乾燥した舗装路面という条件もあります。

測定した日は雨上がりだったので100%乾燥というわけではないのですが、いちおうアスファルトは乾いていますのでまぁ、大丈夫でしょう。

次に騒音計の設定ですが、騒音測定にはA特性とC特性というのがあります。 A特性というのは人間の聴覚に近い条件です。 人間の耳は通常20Hz~20kHzあたりが可聴範囲とされていますが、すべての周波数帯域で一定のレベルで聞こえるのではなく、通常の音声会話で使われる周波数帯域は感度が高く、それより低音または高音になるほど感度が低くなるという特性があります。 A特性というのはこれに近い設定です。 対してC特性というのはすべての周波数帯域を平均化して計測するものです。

近接騒音の測定では「A特性」にすることが決められています。 また、「FAST」「SLOW」の設定も「FAST」にします。 これはサンプリングする速さ(間隔)の設定です。

上記条件で設置、設定したら実際の測定に入ります。

通常の近接騒音計測はエンジンを充分に暖機し、エンジンの最高回転数(最高出力を発生するピーク回転数のこと)の75%まで回転を上げ、一定時間(一般的には5秒以上)その回転を保持したあと瞬時にアクセルオフします。 この一連の操作後のピークホールドの音量値(デシベル値)を記録します。

計測は2回おこない、そのうち大きい(高い)ほうを採用しますが、その2回の差が2dB以上あった場合は無効、つまりNGとなりますので再度やり直しです。

ノーマルのK6Aエンジンの最高回転数は6500rpmですので、その75%の4875rpmで計測するのですが、今回はキリよくそれより高い5000rpmで測定しました。 また、アイドリング時(950rpm)の音量も同時に計測しました。

測定(検証)結果

シェブロンディフューザーのあり、なしでそれぞれ2回計測した結果は以下のようになりました。

アイドリング時
1回目
2回目
シェブロンなし
75.4dB
76.8dB
シェブロンあり
75.1dB
76.1dB

5000rpm時
1回目
2回目
シェブロンなし
98.6dB
99.9dB
シェブロンあり
96.3dB
97.6dB

以上のように、アイドリング時はほとんど差はありませんが、5000rpm時の計測ではおおよそ2dBの差が出ました。 この2dBの差は数値としては僅かなものですが、以前のMRSマフラーの記事のときにも書きましたように、音圧というのは人間の聴覚的には「3dB変わると倍変わる」と言われているので、この2dBの違いは耳で聴いてハッキリと違いがわかるはずです。 この結果だけ見れば、私が感じた差はプラシーボではなく実際にシェブロンノズルの効果があったと言っていいようですが、自信はないです。

ただ、この近接騒音はあくまでも「停車状態」「無負荷状態」でのものです。 シェブロンノズルの効果は原理的に「対大気速度」によって変わるので、実際の走行時のほうが効果は実感できるはずです。

というのも、同じ5000rpmでも無負荷の空吹かしよりも加速時の高負荷時のほうがより排気ガスの量も圧力も流速も高くなりますので、シェブロンによる渦の発生も効果的になると考えられるからです。

ですので、この近接騒音で仮に変化が見られなかった、あるいは効果が微妙であったとしても、それがイコール走行時の効果なしとはならないと言えると思います。 となれば、実際に走行中の騒音を外部から計測してみないと本当の効果はわからないと言えそうです。 今回の計測データはあくまでも目安として捉えてください。

それにしても私の車はうるさいですね。 いくら本来の測定回転数より高い5000rpmとはいえ、100dB近い音量には驚きました。 私の車はH9年式なので103dBまでOKなので規制値には収まっていますので合法範囲内ですが、もし仮にH10年以降の規制値の96dBを適用するならば車検に通らないレベルです。

シェブロン以外のディフューザーによる消音方法について

このシェブロンノズルについてネット検索していたらIHIの技術資料で気になるものがありました。

→IHIのジェットエンジンシンプル低騒音化技術(PDFファイル、約881KB)

この資料によると、シェブロンノズルはたしかに騒音低減効果は高いものの、やはり抵抗は生じるようでジェットエンジンの推力に若干の低下が見られるとのことです。 これをマフラーに置き換えて言うと騒音低減はなされるものの、若干の排圧の上昇(つまり排気抵抗の増加)は避けられないということになります。 まぁ、抵抗と言ってもサイレンサーで消音するのと比べればはるかに小さいレベルだとは思いますが、やはり「排気抵抗ゼロで音を小さくする」なんてうまい話はないということですね。

それに対して上記の資料内では「ノッチノズル」という方法がテストされています。 これはシェブロンノズルに比べて多少騒音低減効果は劣るものの、ジェットの推力低下は見られなかったと書かれています。

このノッチノズルは排気口内径側に5箇所ほどの小さな突起を設け、そこで小さな渦を発生させてシェブロンと同じ効果を狙ったものらしいですが、これこそまさにボーテックスジェネレーターそのものですね。

このやり方ならば排気抵抗を増やすことなくマフラーの騒音を低減できるのかもしれませんが、シェブロンよりも消音効果は薄いようです。

今後

とりあえず今回のテストでシェブロンディフューザーの一定の有効性は確認できたかたちになりますが、今回はあくまでも試作品ですので時間をみて正式なディフューザー(マフラーカッター)をアルミ削り出しで製作しようかなと考えています。 その際にはギザギザの頂点部は尖っていると、たとえ車体からはみ出していなくても突起物として危険とみなされて車検に通らない可能性があるので、ちゃんと角部はRにして仮に人が触れても危なくないようにするつもりです。 それまではちょっとカッコ悪いですがこの試作シェブロンディフューザーをつけて乗ってることにします。 高級車では恥ずかしいですが、ジムニーならなんでもジョークで許される気がするので不思議です。