純正の鋳鉄製フライホイールの軽量化加工および表面処理の注意点について

これはべつにK6Aエンジンに限ったことではありませんが、一般によく純正の鋳鉄製フライホイールを旋盤で削って軽量化することがおこなわれますが、これももちろんただいたずらに削ればいいというわけではなくきちんと剛性面、強度面、さらに面精度に配慮した切削加工が必要です。

まず、純正の鋳鉄フライホイールの材質は一般的なねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)と呼ばれるもので、JISで言うとFC25相当のあまり強度的に余裕のない素材で作られています。 ですので、あまり厚みを薄くしすぎると剛性不足になり、クラッチの摩擦熱などですぐに面が歪んだり、最悪はクラック(割れ)が入ってしまうことがあります。 これはブレーキディスクと同様に考えてもらえば理解しやすいと思います。

ブレーキディスクローターもハードなブレーキングをするとローターが歪んでジャダーが出たり、クラックが入ったりしますが、フライホイールもそれと全く同じことが言えるのです。 ハードなクラッチワークで熱歪みが起こればクラッチジャダーが起きますし、それが進行するとクラックの発生、さらに面歪みにより接触面積が減って圧着力低下が起こりクラッチが滑ってしまいます。 最悪は完全に割れてしまうこともあるのです。

純正フライホイール軽量化加工の一例

↑JA22ジムニーのフライホイール。 右が純正(7kg)、左が軽量化加工(4.8kg)されたもの。

これはとある業者の製品ですが、私に言わせれば「削りすぎ」です。あまりに薄くなりすぎてしまっているため、面剛性が不足し、ハードなクラッチワークでは面歪みが発生しクラッチが滑ったり、ジャダーが発生したり、最悪はクラック、割れが起きる危険性もあります。 私が加工するならここまでリスクの大きい加工はやりません。 それにこの製品は軽量加工後にちゃんとダイナミックバランスを取っているのでしょうか?

見た限りではバランスを取った形跡(ドリル痕)が見えないので、そういう意味でも不安が残ります。

フライホイールの加工は剛性を充分に検討、計算した軽量化が必要

以前にも書きましたが、モノの剛性というのはその厚みの3乗に比例して低下しますので、たとえばフライホイールの厚みをわずか10%薄くするだけで面剛性は一気に30%も落ちてしまうのです。 たとえば、純正で厚さ40mmあるフライホイールを4mm薄くしただけで剛性が3割も低下してしまうということです。

こういった材料力学的な理論計算をきちんと計算して加工している業者が本当にあるのかどうかさえ怪しいところです。 ほとんどの加工業者は「勘と経験」だけで「とりあえず軽くなればいい」って感覚でいい加減な加工をやっているのが現実じゃないでしょうか。

私個人としては仮に純正の鋳鉄製フライホイールの厚みを旋盤で削って薄くするにしても、もっとも薄い部分でも「純正比90%の厚み」は確保しておくべきだと思います。 それ以上薄くするのは純正鋳物材料の強度的に考えて危険です。 もし高回転でフライホイールが破損すると、ミッションケースを割って車内に飛び込んできて大事故につながる危険性がありますので。 目安として、ジャダーが出たり、ビビリ音、共振音がするようなら危険なサインです。 その微振動が原因となってフライホイールの破損につながる場合があります。

とくに、わざわざフライホイールを加工する場合は多くが強化クラッチを組むケースが多いと思いますので、なおさら負担が増加しますので、強度、剛性に余裕を持たせた最小限の加工に留めるべきです。

なお、社外品で多い「ダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄・FCD製)」フライホイールは純正の鋳鉄よりも強度が高く、クラックが入りにくい特性がありますので強度、耐久性的に有利です。

さらにスチール削り出しのフライホイール(多くはクロモリ鋼SCM435やSCM440の熱処理材あたりを使用しています)はさらに強度に優れますが、鋳鉄製フライホイールに比べ炭素(カーボン)分が少ない(鋳鉄は炭素含有量がだいたい1%~3%に対して、SCMはだいたい0.35%~0.4%しかない)ため自己潤滑性が悪いのでクラッチディスクの食いつきが良すぎてしまい半クラッチがやや扱いづらくなるというデメリットもあります。

「フライホイール軽量化」と言っても2つの目的がある

単純に純正フライホイールを削って軽量化するといっても2種類の重視すべき目的があります。

1つは文字通り、フライホイール本体の質量を減らして部品そのものを軽量化すること。 これは単純に削れる駄肉となっているところを削っていけばほぼ目的は達成できます。

2つめは回転慣性マスを減らしてエンジンレスポンスを向上させるというもの。 この場合は、慣性質量として働く部分を重点的に削って軽量化することが目的なので、回転中心より遠い慣性モーメントが働く外周部に近い部分を重点的に削って軽量化します。 通常はこの2つをバランスさせて削ることが多いです。

つまり、たとえば同じ「純正7kgを5kgに軽量化した」と言っても、その「どの部分を重点的に削ったのか」によって体感効果は変わってくるということです。

レスポンスの向上が目的ならば、あまり中心部に近い部分を削っても意味はありません。いたずらに剛性、強度が低くなるだけです。 ですので、純正フライホイールを削る場合は強度的余裕を充分に考慮して、過度に削りすぎないように注意する必要があります。 軽量化しすぎて強度が不足すると前述したように最悪は高回転でスピン破壊をおこしてしまう危険性がありますので。

鋳造時の「表面残留応力」を考慮しながら加工しないと歪みが生じてしまうリスクがある

あと、フライホイールの軽量加工は主にクラッチフェーシング面と反対側の面のみを削ることが多いですが、こういう加工の場合、両面にかかっていた鋳造時の残留応力のバランスが崩れてフライホイールが「反り返ってしまう」ことがあるため、軽量加工した後に反対面のクラッチディスクが接するフェーシング面が歪んでいないかをチェックし、反ったり歪んだりしていたら再研磨(面研)修正することも必要になります。

↑フライホイールに限らず鋳造品というものは、冷えて固まるときに外側から固まっていくため、外部と内部で応力の残留するバランスが保たれているため、下手に片面だけを大きく削るとそのバランスが崩れて図のように反り、歪みが生じてしまう危険性があるのです。 これも軽量化加工時に留意しなければならないポイントです。

このあたりは金属材料および熱処理などをきちんと学んでいる人にとっては「常識」なのですけどね。

加工後はかならず「ダイナミックバランス(動バランス)」をしっかり取り直すこと!

また、これは言うまでもないことですがフライホイールを削って軽量化した場合はかならずダイナミックバランス(動バランス)で回転バランスを取り直すことを怠ってはなりません。これをやらないとクランクメタルに大きなダメージを与えるばかりか、最悪はクランクシャフトが振動で折れてしまうリスクがあります。

↑これはフライホイールを前後の水平の板の上で転がしてバランスを取る「静バランス(スタティックバランス)」の例ですが、こんな方法では充分なバランスが取れません。とくに高回転エンジンではとても大きなアンバランスが生じて、それがクランクシャフトを暴れさせてメタルを損傷したり、最悪はクランクシャフトの折損に繋がります。フライホイールのように高速回転する部品は静バランスではなく必ず「動バランス」でバランス取りを行うこと!

↑これはフライホイールを回転(2000rpm前後)させてバランスを取る「動バランス(ダイナミックバランス)」です。 フライホイールを軽量加工した後は必ずこの方法でバランスをとることがとても重要です。

<スタティックバランス(静バランス)とダイナミックバランス(動バランス)との大きな違い>

その理由ですが、「静バランス」というのは単に「1G下でのつり合い」を見ているだけなので、実際にエンジンが回転した状態、すなわち「回転による加速度G」がかかっていない状態でバランスを見ているだけなのです。

しかし、実際にフライホイールが回転するときにはその遠心力でとても大きなGがかかります。これを忘れてはいけません。 一例を挙げますと、たとえば、静バランスで0.05グラムまで高精度にバランスを取ったとします。

しかしこれは回転していない状態です。 これを8000rpmで回転させたらどうなるでしょうか? ご存知のように重力加速度Gというのは速度の二乗倍に比例して大きくなっていくわけですから、ちょっと乱暴な計算になりますが、0.05g×8000rpm^2で計算すると、3200グラムもの大きさになってしまうのです。 つまり「スタティックバランスで0.05gまで追いつめてバランスを取っても、エンジンが8000rpmで回っているときには3.2kgもの大きなアンバランスが生じてしまうことになるのです」。 どうです?これでフライホイールにダイナミックバランスを取ることがいかに重要であるかが理解できるでしょうか。

↑これはフライホイール、クラッチカバー、クランクシャフト、クランクプーリーをすべて組み込んだ状態でダイナミックバランスを取っている写真です。 本来はこの状態でバランス取りをおこなうことがベストです。これを見ても解るように、フライホイールというのはクランクシャフトの後端に位置しますので、ここで数百グラム、ましてやキログラム単位でのアンバランスが生じるとクランクシャフト全体を振り回すように振動させてしまい、クランクメタルにダメージがいくことはもちろん、最悪はその振動による金属疲労の蓄積でクランクシャフトが折れてしまう危険性があるのです。ですので、フライホイールを加工した際には「ダイナミックバランサーでバランスを取ることが必須」です。 ましてやチューニングして高回転で回すエンジンではスタティックバランスでは通用しません。

純正鋳鉄製フライホイールを軽量加工する際の留意すべきポイント

↑純正鋳鉄製フライホイールを軽量加工する際の注意すべきポイントを図にまとめてみました。 外周部を重点的に肉を落とし、内径に近い部分ほど肉を残してできるかぎり剛性を落とさないよう配慮します。

以上が純正鋳鉄製フライホイール軽量化の際の主な注意事項でしょうか。

ストリートでは軽量化の度合いは「ほどほどに」しておくべきです

なお、軽量化の度合いですが、ストリートの場合はあまり軽くなりすぎるとアイドリングが不安定になったり、クラッチミートがし辛くなったりして乗りにくくなったりしますので、そこそこに留めておいたほうがいいでしょう。

とくに「エアコン入れて坂道発進」なんて場面では軽すぎるフライホイールでは最悪で、トルクの細い軽自動車などでは最悪エンストしたりして街乗りでかなり苦労すると思われますので。

逆に、サーキット専用、競技専用という場合は純正加工ではなく、前述したクロモリ素材などから製作した徹底的に慣性質量を軽量化したフライホイールにしてしまったほうがメリットが大きいです。 サーキット走行やレースに於いてはフライホイールが軽すぎて問題になるなんてことはありえませんので。 ただ、これはクランクプーリーの軽量化にも言えることですが、純正のクランクシャフトは充分なカウンターウエイト質量がないため、振動が発生しやすく、これをクランクプーリーとフライホイールの質量で吸収している設計をしていることが多いので、いたずらにフライホイールを軽量化すると振動の増大によってクランクシャフトの振動増加によってメタルを損傷したり、焼きつき、最悪は振動でクランクシャフトが金属疲労で折れるといったリスクを負うことがあります。

また、ゼロヨンなどのドラッグレースではあえて重いフライホイールを使用することもあります。 これはとくにターボエンジンにおいて、わざとスタート時の回転上昇時に慣性質量による負荷をかけて、クラッチミート前の段階でブーストをかけることと、クラッチミート瞬間の回転ドロップを避けることを目的とした特殊な例ですが。

あと、ジムニーでよくおこなわれる低速競技のトライアル競技などのように、低回転での「トルクの粘り」が重要なケースでもかえって軽量フライホイールはエンストを起こしやすく不利になることがありますので、あえて純正フライホイールよりも「外周部に慣性マスのある重いフライホイール」を使用することもあります。

軽量フライホイールが有利か、純正のままのフライホイールが有利か、はたまた純正より重いフライホイールが有利か、その用途によってケースバイケースということになりますね。

純正鋳鉄フライホイールへの「表面処理加工、熱処理加工」について

1)タフトライド(イソナイト)処理

たまに「純正フライホイールにタフトライドをかけたい」という相談がきます。 しかし、私はあまりお薦めはいたしません。 たしかにタフトライド(最近はイソナイトとも呼ばれる)処理をかけることで表面の硬さが上がり、クラックや摩耗、疲労破壊にも強くなりますが、タフトライドは処理時に約600度近辺まで温度を上げるため、「熱歪み」が生じる恐れがあり、早い話、フライホイールが歪んだり反ったりしてオシャカになってしまう可能性が高いためです。 なので、私は純正の鋳鉄フライホイールにタフトライドをかけることは推奨しません。

カムシャフトやクランクシャフト等と違い、フライホイールが歪んでしまったら修正のしようがありませんので。

なお、社外のSCM材などのフライホイールにはタフトライド処理(あるいは窒化処理)済みのものが多いです。

2)WPC処理

純正の鋳鉄フライホイールにWPC処理をかけることは「一定の効果がある」と私は考えています。 大きな期待はできませんが、残留圧縮応力によって耐クラック性の向上に寄与すると考えられる、つまりフライホイールが「割れにくくなる効果が期待できる」からです。 ただし、注意しなければならない点もあります。 ご存知のようにWPC処理は主に摺動性、つまり滑りを良くする目的で使われることがメインのため、「滑っては困る部分には絶対にかけるべきではありません」。 フライホイールの場合、具体的には「クラッチディスクの接触するフェーシング面」および「クランクシャフト後端と接触する締結面」には絶対にWPCがかからないようにしなければなりません。 こうした部分にはマスキング等をしてから処理することを忘れてはいけません。

↑純正フライホイールにWPC処理をかける場合、全面にかけてはいけません。クラッチディスクフェーシング面およびクランクシャフト後端との接触面(締結面)は滑らないようにしなければならないため、この2箇所には必ずマスキングをしてWPCがかからないようにしてから処理する必要があります。 実際に私の過去の経験で、オートバイ用クランクシャフトのテーパー勘合部にWPC処理をかけたところ、規定トルクでしっかり締めたにもかかわらず、運転中に微細な滑りが生じて異常摩耗を起こして最終的に「クランクシャフトとフライホイールが空回りしてしまった」ことが現実にありました。 WPC処理をするときはこういう点に注意が必要です。

世の中にはなんでもかんでもWPC処理をかける人がいますが、きちんとそのメリットとデメリットを理解したうえでおこなわないと思わぬアクシデントの元になります。 世の中に「万能な表面処理」など存在しません。

まとめ

ちなみに、私のJA22ジムニーは純正フライホイールのままですが、今思えばエンジンオーバーホール時についでに少しだけ軽量化しておけばよかったかなと思っています。 外周部を重点的に1kg~2kg程度でも軽量化するだけでだいぶレスポンス面で変わってくるでしょうからね。

ただ、今私の頭の中にある構想では単純な旋盤で削って薄くするような軽量化ではなく、NCフライスによる面剛性を維持したまま効率的に慣性質量を低減させる加工方法を考えています。 いずれ、再度クラッチ交換をするときや、ミッションを降ろすようなことがあったときにこの独自設計による純正加工の軽量フライホイールを試してみたいと思っています。 今までにない剛性を確保した画期的な加工肉抜き方法を考えています。

私も過去にパルサーGTi-RではOS技研のツインプレート、R32GT-RではTILTONのツインプレートクラッチを使用していましたが、共に専用の軽量フライホイールで使用していましたのでレスポンスはかなり良好でした。ですので軽量フライホイールにすることによる運転上のメリットとデメリットは理解しています。 ただ、これら2車種はダンパーレスのメタルクラッチということもありミートタイミングがシビアで坂道発進だけはやや辛かったですが。

ストリートメインではメタルタイプよりも純正同様のクッションがあるタイプのクラッチディスクのほうが扱い易いですね。寿命もそっちのほうが長いですし。

●<参考> 本物のレーシングマシンに使用されるフライホイール

↑参考までに、私が過去に製作したフォーミュラ・ニッポン(旧F3000・現スーパーフォーミュラ)マシン用のフライホイールです。けっこう昔のものですけどね。

材質は特殊なアルミ合金製、A2024あるいはANP79といった特殊なジュラルミンで、表面処理はタフラム処理(硬質アルマイト層にテフロン系個体潤滑成分を含浸させたもの)を施していました。 高回転しか使わないレーシングエンジンにとってフライホイールはレスポンスにとって邪魔な質量でしかないので、1レースだけの寿命を前提にこうした徹底的に軽量化したフライホイールを使用していたのです。 ここまで軽量化するともはや「はずみ車」としての機能はなく単にクラッチマウントのためのプレートでしかありません。レーシングマシンにとって「フライホイールが軽すぎて困るなんてことは絶対にありえない」ことですので。ちなみに、これを使用したマシンは見事にその年のシリーズチャンピオンを獲得しました。 懐かしい思い出です。