砂漠化の原因とその対策―持続的農業技術の発展のために何をすべきか?

ここでは,地球の環境問題として砂漠化について話題提供します。

そして,皆さんといっしょに,「乾燥地の経済的・持続的農業技術の発展」について,考えてみたいと思います。

話の進め方として、

・乾燥地とは何か?
・砂漠化とその原因
・農業開発による環境問題とその対策
・砂漠化防止技術と研究

について紹介し,最後に,

・持続的農業技術の発展のために何をすべきか?

を考えてみたいと思います。

乾燥地とは

皆さん,乾燥地とは何ですか? と問われたら,何を想像しますか? 文字通りに,乾燥した大地ということでしょう。でも,どの程度,乾燥した状態をいうのでしょうか? そこで,まず初めに,乾燥地の特徴を紹介します。

乾燥地とは何かという場合,頭に浮かぶことは,降水量が少ない,ということでしょう。そこで,世界の年平均降水量を示しました。赤い色の方が降水量が少ないことを意味しています。また,乾燥地は,日射量が多いので,蒸発量が多いことも予想できます。この図は,世界の年平均蒸発散位の分布を示したものです。ここで,蒸発散位とは,「気温,湿度,日射,風の気象因子に依存し,与えられた気象条件下で得られる最大の蒸発散量」です。蒸発散量とは地面からの蒸発量と植物からの蒸散量の合計したものです。この降水量分布の分布と蒸発散位の分布が,右下に示した世界の乾燥地の分布と関係がありそうですね。これらの関係を調べる前に,世界の乾燥地の分布を,見てみましょう。

この図は,世界の乾燥地の分布を示したものです。 砂漠は乾燥地の中でも極めて乾燥した地域で,亜熱帯砂漠は大気の大循環によって,南緯,北緯の25度付近を中心に形成されます。その中に,サハラ砂漠があります。雨陰砂漠といって,山脈に囲まれた地域で乾燥した地域があります。例えば, タクラマカン砂漠です。冷涼海岸砂漠は,海岸付近で冷たい海流に起因する砂漠で。その中に アタカマ砂漠があります。乾燥地はこれらの砂漠の回りに分布しています。ここでは、乾燥地と湿潤地の気象の特徴を探るために,乾燥地のイランと,湿潤地の日本を比較してみます。

この図は,降水量または蒸発散位の月別の変化を示しています。湿潤地の鳥取は降水量が蒸発散位よりも多い月がありますが,イランは冬を除いて,蒸発散位が降水量よりもはるかに多いということです。このように,「乾燥地とは,降水量よりも蒸発散位が大きい地域」であると言えます。 さて,乾燥地の程度は,どのようにして判断するのでしょうか?

今,降水量をP,蒸発散位をPETとしますと,PとPETの比を「乾燥指数」と定義します。UNEPでは,この乾燥指数の範囲で,極乾燥地,乾燥地,半乾燥地,乾性半湿潤地に区分しています。そして,年降水量は,冬雨季の地域と夏雨季の地域で異なり,例えば,乾燥地は,冬雨季の地域で,年降水量が 200mm未満,夏雨季の地域で,年降水量が 300mm未満,です。現在では,この乾燥地の分類が使用されています。さて,乾燥地とは「降水量が少ない」というだけでしょうか?

いま,年降水量が300mm未満の地点について,降水量と平年降水量の変動率の関係を示してみました。ここで,変動率とは,雨量の標準偏差を平均値で除したものです。この図から明らかなように,雨量が少ないところほど,変動率が大きく,指数関数的に変化する傾向が認められます。また,降水量の時間的変化も大きく,雨季には極めて大きな降雨強度が生じるという特徴をもっています。例えば,表に示すように,サハラで, 1934年には,年平均降水量が30mmであるのに,3日で370mmを記録しています。1950年 9月には,年平均降水量が27mmであるのに,3時間で44mmを記録しています。このように,乾燥地においては,雨期に全く雨を見ない年があるかと思えば,逆に,集中的な豪雨が観測されます。

この図は,世界の年降水量の変動率を示したものです。ハッチで示した濃淡が変動率の大きさを示したものですが,変動率が30%以上の地域が,乾燥地の分布と良く一致しています。つまり,乾燥地における降水量の特徴として,降水量が少ないだけでなく,降雨の年変動が大きいことが挙げられます。

さて,乾燥地の区分が,国連環境計画で定義されました。例えば,アフリカのサハラ砂漠は,この分類に従えば,極乾燥地に属します。それでは,乾燥地,半乾燥地,乾性半湿潤地の面積が,それぞれ,世界の全陸地面積のどのぐらいを占めているのでしょうか?

この図は,乾燥地の面積割合を示したものです。円グラフの中の数値が全世界の陸地面積に対する割合で,乾燥地は,乾性半湿潤,半乾燥,乾燥,極乾燥をあわせると47.2%になることが分かります。 さて,先ほど,例えば,サハラ砂漠は極乾燥地に属していることを説明しました。これからお話しする砂漠化という場合,すでに砂漠になっている極乾燥地は除外します。ここで,砂漠化を受けやすい乾燥地と示したものは,極乾燥地を差し引くので,全陸地面積の39.7%になります。つまり,世界の陸地面積の約4割が砂漠化を受けやすい乾燥地であることを示しています。

砂漠化とその原因

砂漠化とその原因について話を進めていきます。

砂漠とは、この写真のように,降水量が少ないために土壌が乾燥して、植生がほとんどない地域です。それでは,砂漠化とは何でしょうか?このように砂漠になることでしょうか?砂漠化という場合,もともと砂漠であった地域は,その対象にはなりません。そこで、砂漠化の地図を調べてみましょう。

砂漠化は,乾燥地,半乾燥地,乾性半湿潤地で起きていて,色合いの濃い地域が,砂漠化の程度が高いことを示しています。サハラ砂漠の南側のサヘル,中東諸国,中国の西北部などの部分で,砂漠化が進行しています。もちろん,北アメリカやオーストラリア大陸でも見受けられますが,人口増加が著しいアフリカが最も大きな問題になっています。砂漠化とは,人が住んでいた所や植物の生えていた所が,気候変動や人間の活動によって,土地が荒れ,自然の営みが破壊して,不毛の大地に変化することです。

この図は,砂漠化の現状を示したものです。砂漠化の影響を受けている土地面積は約36億haで,全陸地の約4分の1と言われ,日本の面積の95倍に相当します。砂漠化の影響を受けている人口は、世界人口の約6分の1,約10億人です。そのうち、6億人が栄養不足で、開発途上国に集中していると言われています。耕作可能な乾燥地における砂漠化地域の割合を大陸別にみると,アフリカとアジアで66%,3分の2を占めていることが分かります。ここで,耕作可能な乾燥地に注目したいと思います。

耕作可能な乾燥地を,放牧地,降雨依存地,灌漑農地に分けて,砂漠化の影響を受けている割合を示しています。耕作可能な乾燥地の面積は、約51.6億haで、その約70%の約36億haが砂漠化の影響を受けています。これは、先ほど示した地球の全陸地面積の約4分の1に相当します。放牧地,降雨依存地,灌漑農地の中で,面積的に、放牧地の占める面積が大きく,砂漠化の割合も73%と大きいことが分かります。それでは,何が原因で、砂漠化になったのでしょうか?

砂漠化,つまり土地の荒廃の原因について,確認しておきましょう。砂漠化の要因の割合は,自然的な要因が13%,人為的な要因が87%で,人為的要因の占める割合が大きいことが分かります。自然的要因には,地球規模での生じている気候変動,長期の旱魃,降水量の減少と,これに伴う乾燥化があります。一方,人為的要因は,人間の活動が原因で起こる砂漠化で,ヤギやヒツジなどの家畜を過剰に飼育すること,燃料用の薪や住居用の木材を過剰に伐採すること,農業開発のために過度に原野を開墾すること,などがあげられます。これらの人間活動によって,風食,水食による土壌侵食が起こります。また,不適切な水管理,つまり過剰な灌漑によって,圃場が湛水し,ウォータロギングによる過湿害が問題になります。さらに,排水不良と強い蒸発によって土壌面に塩類が集積して,農地を放棄することもあります。これらが,砂漠化の原因になっています。それでは,この中身を紹介します。

まず,砂漠化の原因の中で,自然的要因について紹介します。この図は,アフリカのセネガルで記録された過去100年の,年降水量の変動を示したものです。この100年間の平均降水量は,356mmですが,1920年以降,降水量が減少し,乾燥化の傾向が伺えます。また,1970年代は,年平均値の半分程度の降水量が続き,長期の旱魃がありました。さらに,最近の研究では,地球の温暖化に伴って,乾燥地はますます降水量が少なくなると予測した研究もあり,自然的な要因として,降水量の減少が砂漠化の原因の一つになっています。

砂漠化の人為的要因を,原因別,地域別に,砂漠化の面積をまとめた表を見てみましょう。アフリカで過放牧,アジアが過放牧と樹木の過伐採が多く,オーストラリアで過放牧,北米で不適切な土地,水管理が多いことが分かります。全体的に,過放牧と,不適切な土地・水管理による砂漠化が進行しています。砂漠化の背景に,貧困と急激な人口増加という社会的・経済的な要因が存在します。そこで,人口の問題を考えて見ます。

この図は,先進国と発展途上国の,地域別の人口及び人口増加率の推移を示したものです。棒グラフは人口の推移で,赤い部分が先進地域の人口の推移,黒い部分が発展途上地域の人口の推移です。また,折線グラフは人口の増加率の推移を示したものです。図に示すように,現在,世界の人口は60億で,世界全域の人口増加率は1.4%です。このまま推移すると,2025年には,世界の人口は,80億を超えるであろうと予測されています。この人口増加の割合は発展途上国で高く,その中に多くの乾燥地が含まれています。人口増加に対応するための食糧は,単純に計算しても,10年後には,現在の生産量の1.2倍が必要になり,20年後には世界的な食糧不足が生じると言われています。

世界の人口は,この100年間に4倍も増加しています。そこで、今後,さらに,世界の人口は増加すると仮説を立てます。この人口増加に伴って安定した食糧を確保するためには,農地面積を拡大するか,あるいは,単位面積当たりの収量増加を図る必要があります。農地の面積を拡大するためには,原野の開墾,開拓,水資源の開発,農地の基盤整備などが必要です。一方,単位面積当たりの収量を増加するためには,灌漑排水システムの導入,肥料施用法の改善,多収量や病害虫に強い品種の改良,栽培方法の改善,土壌改良など質的な拡大が必要です。この単位面積当たりの収量を増加させることは土地の生産性を向上させます。これらのことを実現する手段として,水資源開発,農地の基盤整備,農村の総合的な構造改善などの大規模な公共事業があります。近年,農業開発の質的向上が要求され,持続的農業に留意した環境にやさしい開発技術が要求されています。

農業開発による環境問題とその対策

世界的に見ると,農業開発に伴う環境問題が見られます。そこで,乾燥地の農業形態に区別して,事例を示しながら問題点を整理し,その対策について考えてみたいと思います。乾燥地の農業は,伝統的な栽培技術があり,農業としては,牧畜農業,降雨依存型農業,灌漑農業に区別できます。人口が増加して,食糧増産のために,近代的な技術によって農業開発が行われました。しかしながら,それが原因で生態系の環境破壊が起こっています。ここでは、その事例を紹介し,持続的な対策と自然の回復技術について考えてみます。

牧畜農業での問題は,過放牧による砂漠化です。人口が一人増えると4頭の羊を飼育する必要があると言われています。生計を保つためにヤギや羊を増やして,草原が裸地になってしますケースが増えています。1頭の羊を飼育するために1ヶ月に100kgから300kgの生草が必要とされています。1ヶ月に1平方メートルあたり100gの生草を生産できる場合,1ヘクタールあたり3頭程度が適当とされています。対策として,羊の可能飼育頭数と牧草の生育状況に一定の関係があるので,家畜数に応じた大面積の草地が必要となります。面積が確保できない場合は,草地をいくつかに区分して,これを順番に利用する輪換放牧が有効です。過放牧を防ぐためには,植生に見合う家畜頭数を確定維持することが必要です。

牧畜農業の場合,牧柵を建設して,家畜の移動を制限して,他の家畜の侵入から草地を守ることが必要です。風食に対しては,防砂垣などの防風対策が有効で,地域に適した工法の開発と,その造成が必要です。牧草の生産効率を向上させるために,牧草地に灌漑したり,より生産性の高い牧草を導入することが有効であります。しかしながら,センターピボットと呼ばれる大型回転式灌漑装置で地下水を利用する場合には,水資源の枯渇に注意する必要があります。

さて,別の農業開発の問題として,深井戸揚水による家畜給水場と,草地の砂漠化の事例を紹介します。1973年の干ばつ以来,サハラ沙漠の南に,深さ600mの地下から水を汲み上げるという深井戸が,1000本以上も掘られました。毎日一万頭を超える牛,やぎ,羊などが,家畜番の少年達に連れられて水を求めてやってきました。その結果,深井戸が完成してから約2年ほどで,遊牧民が1日に移動できる半径約10Kmの草が根こそぎ食べ尽くされ,草原は砂漠化しました。つまり,深井戸が完成したら,放牧民が家畜とともに,ここに住み着いてしまったからです。この話は,乾燥地の農業開発がもたらした興味深い話です。対策として,深井戸からの揚水量を制限して地下水の枯渇を防ぐとともに,家畜の頭数を制限して,周辺の牧草を健全に生育させることが必要です。

降雨依存型農業は,天水農業ともいい,降雨のみに依存する農法です。降水量が冬雨型のところでは約250mm以上,夏雨型のところでは450mm以上の半乾燥地域に多く見られ,小麦やソルガムなどの穀類が栽培されています。土壌中の水分管理が決め手になるために,古くから多くの方法が用いられてきました。つまり,自然の降雨を土壌中に有効に貯蔵し,必要な時期まで保持するための工夫です。伝統的な農法として,雨季前に深くまで耕作します。雨水が容易に根群域に浸透し,表面流出が少なくなり,根群域に土中水が保留されます。このことが作物の生育を促します。乾季に表面を浅く耕作します。これは,除草の効果と土壌面蒸発の抑制になります。降雨依存型農業では,わずかな降水量を効率的に利用することが作物生産の決め手になります。そのために,いろいろな集水法があります。例えば,マイクロ集水方式,小堤防方式,半円形集水方式などが知られています。

伝統的な農業技術として,「休閑農法」があります。すなわち,1年耕作すると,1年から数年間,休耕して,その間の雨水を土中に貯留し,さらに,その期間の地力の回復を図ろうとする方法です。冬雨地帯では,オオムギ,コムギ,ヒヨコマメ,夏雨地帯では,ソルガム,ミレット,ラッカセイを植えることが多いです。 しかしながら,人口増加に伴って,食料確保のために,やむをえず休耕期間を短縮した場合には,水分不足のために不作になり,途中で耕作を放棄することも少なくありません。そして,牧畜の場合と同様に地面の裸地化が進んで土壌の侵食が起こりやすい状態になり,荒漠地となります。これを過耕作といいます。対策として,乾燥地の土壌は,有機物に乏しく土壌厚さも薄く,休閑中の風食や水食の危険性も大きいので,植物の残渣などのマルチをして休耕期間を短縮することが有効です。中国では,古くから石田農法といって,地表にグラベルマルチを施して,飛砂防止効果,蒸発抑制による土中保水効果,毛管遮断による塩集積軽減,水蒸気の凝結による集水効果,温度遮断による土中保温効果を上げています。このように,マルチをして保水効果をあげ,侵食防止を行うことも有効な対策と思われます。

降雨依存型農業で,侵食問題として挙げられるものに過開墾による砂漠化があります。すなわち,黄土高原にみられるように,人口増加に伴って,耕地を求め,山の上まで開墾した結果,大きな土壌侵食が発生した事例です。黄土高原の土壌はシルト分が多く含まれていて,豪雨によって容易に浸食され,下流にそのシルト分が運ばれます。黄河の中流では,1立方メートルに6から7kgのシルト分が含まれています。この侵食防止対策として,急傾面では,等高線状に植林が行われています。また,緩やかな斜面では,テラス工によって作物を栽培することが有効です。

地下水潅漑農業で使用される伝統的な方法として,カナートと呼ばれる自然流下による地下給水施設があります。地下水位,帯水層,不透水層,基礎岩盤があるとき,帯水層の水を暗渠によって導く地下水路です。構造として,深さ20メートル 程度の「母井戸」があり,地下,数メートルの深さに暗渠,内部に堆積した土砂を取り除くために,管理者が出入りできる竪坑があります。 さて,新規に農地を開発し。その水資源として地下水を利用するために,新井戸を建設しました。その結果,地下水位が低下して,カナートから水が出ない状況にあります。これは地下水の枯渇を招いた例です。対策として,帯水層内の貯水容量,降雨などを調査して,新井戸の揚水量を制限することが有効です。

この写真は,河川水灌漑農業のうちで,河川を堰きとめて取水する事例を示しています。この地域は,年降水量130~210mmの乾燥地で,灌漑が必要な黄河中流部です。川幅400mの黄河に頭首工を設け,設計最大流量565m3/s(年間53億m3)の取水を行っています。受益面積は約53万haで,小麦,トウモロコシ,アワ,テンサイ,ヒマワリを栽培しています。これは,年間の取水量が1000mmに相当します。問題は,黄河の下流部で地下水位が低下して井戸が枯れてきました。また,黄河河口付近で水が流れないという断流が発生しました。これは,過剰取水の問題です。対策として,年間50億m3を40億m3に制限し,河川維持流量を100m3/s 以上に確保し,断流を解消しました。

この図は,頭首工から取水する大型灌漑プロジェクトの用水路と排水路を示しています。赤色が用水路,青色が排水路です。東西200km,南北50km,受益面積53万haの灌漑面積は,鳥取県の面積の1.5倍に相当します。水路内の水質調査として,頭首工,第1次支線排水路,下流の湖,幹線排水路で,電気伝導度EC値と,主なイオン濃度を測定しました。その結果,排水路のEC値が9 dS/mと高く,ナトリウムと塩素イオン濃度が高いです。ここで,一つの問題を考えて見ます。電気伝導度のEC値が1 dS/m,つまり,これは塩化ナトリウムで1リットルに0.5g含まれている水溶液に相当します。この水質で,年間50億m3の取水があるとしますと,年間250万tの塩が供給されている計算になります。仮に受益面積の農地が50万haであれば,1haに5トンの塩を毎年供給することになります。これを50年続けると1haに250トンの塩を農地に供給することになります。塩の密度を2g/cm3とすると,1.25cmの塩が堆積したことに相当します。これは,灌漑による塩供給の問題です。本地区のデータについて,流入水,流出水,排水,土中水,地下水の塩分濃度,イオン成分の濃度,など時期的な変化を調査してみないと断言できませんが,土中塩分の濃度が継続的に上昇していれば,持続的な農業は不可能です。50年後には,荒廃地になっていることは,世界の他の灌漑プロジェクトと同様であります。この対策として,用水路と排水路を分離し,農地の排水を行い末端では排水中の脱塩処理を行う必要があります。

水路内の水の塩分濃度は,場所と時間によって変化します。測定した場所と時刻で観測値は異なります。したがって,あくまでも参考値として理解することが重要です。これは,1990年8月,黄河の青銅峡ダムから導水した穀倉地帯で塩類集積が問題となっている所を調査した記録です。
沙坡頭付近の黄河の水は,電気伝導度ECが,0.38 dS/mでした。日本の農業用水(水稲用)水質基準は0.3 dS/m以下で,これで判断すると,多少,問題があります。さらに,沙坡頭よりも数100km下流の銀川市では,用水路のEC値が0.55 dS/mとわずかに高く,排水路のEC値は,1.19 dS/mになっていました。結論としては,一般に,河川の上流から下流に行くほど塩濃度は高くなります。また,用水路よりも排水路の方が,塩濃度が高くなる傾向にあります。長い間に塩は集積するので,塩収支を常に考え,土壌を適切な状態に保つことが大切です。

河川水灌漑農業で,「過湿害と漏水による水路の搬送効率の低下」という問題があります。水路が素掘りで土水路のために,水路の底部と側面から漏水が生じます。この漏水は,貴重な取水を圃場まで導く途中で,損失していることになり,水路の搬送効率の低下を来たしています。また漏水は,周辺の農地の地下水位を上昇させ,湛水による過湿害を引き起こします。この対策としてはコンクリートでライニングすることが有効です。中国東北部では,節水としてブロックライニングが進められています。しかし,冬に土壌が凍結して,ライニング材のブロックが持ち上がり,破損する事例が発生しました。この対策としては,ブロックの下に砂を挿入して毛管上昇を防ぐことが有効な手段です。さらに、地下水位が浅い場合、土壌面付近の蒸発に伴って塩類集積が発生しています。

この写真は,3年前まで畑でしたが,塩類集積によって農業を放棄した農地の状況と,塩類集積のメカニズムを説明したものです。問題は,排水設備のない畑地に,過剰な灌漑を行うと地下水が上昇すること,そして,地中の毛管上昇水が地表に届き,蒸発すると,地表面に塩分が残ります。この問題は塩類集積です。この対策としては,地表排水,地下水位低下などの排水整備法,リーチング,土壌表層除去などの除塩法,アルカリ土壌の改良,pH調整などの土壌改良法,があります。しかし,健全な土壌に回復させるには,経費と時間が掛かります。

湛水害と塩害の防止対策例として,管井を用いた地下水位制御を紹介します。砂漠開発地で灌漑用水路からの地表灌漑で,隣接する既耕地の地下水流入量が増加し,既耕地の湛水害と塩害が生じました。そのときの地下水位を(1)の線で示します。問題解決のための有効な手段として,管井を用いた地下水位制御があります。すなわち,既耕地に管井を設置し,流入地下水を揚水して地下水位を(2)の線まで低下させ,新たな湛水害と塩害を防止します。この管井を用いた方法は,既耕地への地下水による補助灌漑として使用できます。また,冬季の余剰水は地下水涵養にまわすことができます。このようにして,地下水位を制御とともに,複合灌漑として有効な方法です。

次に,河川水灌漑農業が環境に及ぼした深刻な問題を紹介します。天山山脈やパミ-ル高原を源としたアムダリア川とシルダリア川に,多くのダムや頭首工が建設され,大規模な水資源開発が行われました。図中に緑色で示した地域は,綿花と水稲栽培を中心とした大規模灌漑地域です。北海道の面積にも匹敵する760万haの灌漑開発によって,上流で水を取りすぎて,下流に水が流れない。その結果,アラル海への流入量は,20年間で500億m3から50億m3へと10分の1に減少し,現在は,ほとんどアラル海への流入水は見られません。さらに,上流の排水が下流に混ざり,河川水の塩分濃度が下流へ行くほど高くなる現象も起こっています。この問題も河川からの過剰取水の問題です。

20年間にアラル海への流入量が10分の1に減少した結果,アラル海が縮小し,干陸した湖底に漁船が放置されて,漁業は壊滅状態です。干陸地では,露出した地表面に塩が吹き出し,風で塩と砂が吹き上げられて,周辺の農地に塩害が発生しています。対策は,極めて困難です。アラル海の復帰だけを考えるのであれば,アラル海の除塩と,上流からパイプラインで導水するなどの方法が考えられます。しかし,すでに,上流側では農地で生産しているので,その灌漑用水量が必要です。これも用水と排水を分離して,水量と水質を管理する方法が有効です。

農業開発による環境問題の中で,灌漑農業が引き起こした塩類集積,つまり,「不合理な水管理あるいは土壌管理が原因で,水資源の枯渇や土壌の塩類化による農地の砂漠化」は,土壌劣化の深刻な問題です。一旦,土壌に塩類が集積した農地を,作物が生育可能な状態に回復することは,極めて困難です。対策としては、いくつかの条件,つまり,河川水や地下水などの利用できる水が豊富にあるかどうか? 土壌のアルカリ性は進んでいるかどうか? 土壌の透水性は良いか悪いか?などの程度や,実施する際に必要な経費が高いか安いか?などの経済的な条件によって異なります。具体的な方法として、地下水制御法,リーチング法,土壌改良法,表面流出除去法,耐塩作物による吸収法,デハイドレーション法,塩蒸発除去法,表層剥取除去法,など,があります。現場の状況にあわせて,これらの方法を併用して除塩する必要がありますが,巨額な経費と膨大な時間を要します。

砂漠化は,人為的要因が9割近くで,人口増加を背景に,薪炭材の過剰な採取による過伐採,過度な農業開発による過開墾が原因で,「土壌侵食」になり,これは養分を含んだ表土の流出を意味し,農業にとって不利です。また,過耕作は地力の低下になり,不適切な水管理による過灌漑が原因で,「湛水害と塩害」を引き起こします。これらの影響として,作物生産量の減少,そして,最後は農地の放棄という最悪のストーリになります。このように,一度,砂漠化してからは,生態系を自然回復することが極めて困難であります。そこで,砂漠化する前に,人類の知恵で,何とか,砂漠化防止対策を講じることが,経済的に重要です。

砂漠化防止技術と研究

ここでは,砂漠化の原因を整理しながら、砂漠化防止技術と研究項目を関連付けた具体例を説明して,最後に持続的農牧林業の発展について述べたいと思います。

砂漠化の中で過伐採は,木の切りすぎ,取り過ぎのことですが,これは,毎日の生活で,炊事用の薪炭材,牧畜農業で他の家畜の侵入を防ぐ牧柵,住居用の木材などに必要なものです。

過伐採は,植生の破壊であり,乾燥地では,そのまま,はげ山になり,雨季の豪雨で大規模な土壌侵食が発生します。これを防ぐには,植林が有効です。技術開発・研究項目として,森林容量の状況把握,植林に適した樹種の選定,地域に適した造林技術,植林の啓蒙活動と実践,などがあります。問題は、人口増加に伴って、薪の需要が増していることです。

まず,状況把握のために、砂漠化の現地調査が必要です。西アフリカのマリ国の調査結果を紹介します。人口は1955年から1995年までの40年間に2.5倍になっています。薪炭材の消費量は年々増加しています。森林面積は、1974年から1992年の17年間に7.1%減少しています。特に,乾燥地の住民には植林という概念がなく,植林の必要性を訴えることが大事です。人口増加に伴い燃料と木材の需要が増しています。何とか、植生破壊の前で有効な対策を講じなければなりません。

ひとつの対策として,薪を節約する方法を検討することがあげられます。生活に毎日必要な炊事用の薪は,わずかな節約でも効果があります。従来の薪をそのまま使用する場合と比べて,改良カマドを使用すると節約になります。1戸の家庭では小さなことでも,広く普及すると,大きな効果になります。また,中国の黄土高原の小さな村では,燃料に天然ガスを使用しています。これも薪の節約になります。それぞれの地域によって異なりますが,どの程度の薪を節約できるかを定量的に把握することが必要です。

森林破壊を歴史的に把握することが重要です。黄土高原の森林の消滅について紹介します。3000年前は森林地帯で覆われていましたが,人口増加に伴い、中国北部の各地で森林破壊が起こり、現代の状態があります。まず、 3000年前から1500年前の間には、春秋時代に宮殿や墓の規模増大に伴う巨木伐採,戦国時代以降の無計画な大木の伐採,がありました。そして、 1500年前から現代の間に、唐・宋の時代の大々的な開墾があり、森林地帯が急速に減少しています。このようにして,歴史的に人類の行為によって森林が破壊されたのです。「自然と人間」の関わりについて,砂漠化という形で我々に示している事例です。

森林地帯を過度に開墾すると,裸地面の表土は豪雨によって表土流出を起こして土壌侵食となります。しかし、食糧確保のためには、ある程度の開墾は必要です。そこで,ある間隔に樹木を残して,その間で作物を栽培したり,牧畜を行うなどの工夫が必要です。林間作物栽培,林間牧畜,同じ場所で樹木の栽培と農作物の栽培を行うアグリフォーレストリーという考え方があります。樹木は,作物に日陰を提供したり,防風の役目や,落ち葉は土つくりになります。牧畜の糞は肥料にもなるでしょう。林業と農業と牧畜の共存によって,持続的な農業が可能となるでしょう。このように土壌侵食が起こらないような農業開発が必要です。

侵食防止の研究として,土壌被覆,つまりマルチによる侵食抑制実験があります。この写真は,土壌表面に,植物の残渣を被覆したもの,ポリアクリル系の物質を散布したもの,土壌改良剤を表層に混入したものなど,マルチの種類によって,表面流出量と浸透量にどのような相違が得られるか?つまり,侵食に対するマルチの効果を調べる実験です。表面流出量が少なく,経済的で有効,無害なマルチ材料を開発,選出することが必要です。

この図は,林地,草地,畑地,裸地によって,つまり,地表の植生状態によって,土壌の侵食量と流出率がどのように異なるか?また,侵食に,どのような種類があるかを示したものです。降水量に対する流出率が,林地では0.4%,裸地では50.4%と大きく異なることが見てわかります。また,当然のことですが,裸地の方が1ヘクタールあたりの土壌侵食量が大きいことを示しています。一旦,裸地状態になった大地を,再び,林地や草地に自然回復することは,工事費も膨大で困難です。侵食防止のために,あらかじめ農牧林地を植生で保護するに要する植被率を確保することが重要です。

侵食防止のための植林のためには,多くの現場の調査や実験が必要です。つまり,侵食量は,土壌の種類,傾斜度,斜面長,降雨強度,降雨前の水分状態などに依存します。そこで,緑化のために,適切な斜面勾配はいくらか?植栽間隔や栽培方法はどうすれば良いか?など,その地域ごとに決める必要があります。また,どの傾斜度からテラス工が有効であるかなどの研究が,種々の組み合わせの現場実験でなされています。

そのような研究は,政策に生かされています。中国では,これまで,山の上まで開墾をすすめてきましたが,侵食の問題を解決するために,「退耕還林」というスローガンを掲げました。すなわち,急傾斜地等での無理な耕作をやめ、森林に還すということです。傾斜角が25度以上は耕作をしないで,植林して侵食を防止し,緩やかな斜面にテラス工で作物を育てると言う考え方です。赤い丸で囲った部分をよく見てください。魚のうろこに見えませんか?

これは,「魚鱗坑造林」といって,苗木の周りに水を集める方法です。斜面に直径50cmから1mの穴を掘り,下流側に土を馬蹄形に盛り上げて,雨水を集め,穴の低い部分に木を植えます。

流動砂丘は,民家,道路,鉄道など,構造物を飲み込んでしまう。毛烏素砂漠では,1年間に1mずつ砂丘が移動しています。この砂の移動を防止し,砂丘を固定する技術が必要です。

この図は,自然の回復力を有効に利用して,砂丘を固定し,緑化する方法を示したものです。動き出した砂を止めるために,植林が行われています。毛烏素砂漠は半乾燥地ですが,豊富な地下水があり,樹木が育つ地域です。動いている砂丘の風上側の,水分条件が良い場所に,ヤナギの枝を直接,挿し木します。ヤナギが根付くと,その部分の砂の動きが小さくなります。そして,やがて砂丘全体の高さも低くなってきます。これを何回も繰り返すことによって,4-5年で砂の動きが止まります。

面的な砂丘固定法として,草方格と呼ばれる方法があります。草方格とは,約1m四方の格子状に,麦わらを砂中にスコップで押し込み,砂の動きを抑える方法です。

この写真は,中国のテングリ砂漠の中で,砂丘固定に成功したアルテミシアと,カラガナという緑化植物です。いずれも,耐乾性の植物で,草方格の中で自然に生育しています。どの種類の植物が耐乾性で,その地域で生存するかを判断することが,緑化成功のポイントであります。

さらに,植林する場合,その地域の在来種は何か?外来種を持ち込んでも生育するかの判断も重要です。気温,降水量,風などの気象要因を考慮して,緑化に適切な樹種を選択しなければなりません。中国で,砂地の植林に,油松,側柏,臭柏を植林していました。

臭柏は,砂地の原植生で育っている在来種です。根茎も深くまで伸びていて,その地域の緑化に適した樹種として有望です。この根茎の発達が,砂丘の移動を止めていること,そして,根が深くまで伸びることによって,少ない水を吸収していることが伺えます。

これまで,砂漠化を防止する技術として,移動砂丘の固定,林業・農業・牧畜の共存,持続的緑化,薪炭材の節約について説明してきました。次に,集水と節水農業,自然エネルギの利用,造水技術など,砂漠化防止に有効な工学的な技術開発を紹介します。

集水面積と耕地面積との比率を,ある一定の割合にして,集水する伝統的な技術があります。この方法は,圃場の周囲にある原野などの地域の雨水を集めて,その水を圃場に導入して,作物に利用します。集水面積と耕地面積は年降水量,栽培作物の消費量によって決まります。等高線に沿って溝を掘るか石垣を築くか,あるいはテラスによって集めた雨水を農業に利用します。背後地の狭いところでは,「マイクロキャッチメント方式」で集めた雨水を窪地に導き,そこに植えた果樹に利用されます。多くの場合,耐乾性樹木,多年生作物に適用されています。

半乾燥地では,降雨をいかに効率的に集水して、節水農業を行うかが重要な課題です。わずかな降雨も有効に利用するために,タンク灌漑法の場合,想定した圃場面積に対して,最適なエプロン面積,最適なタンク容量を決定することがひとつのポイントです。例えば,降雨の集水効率を16~65%,適用効率を点滴法95%,散水法85%と設定して計算した結果,点適法は散水法と比較して,最適タンク容量を40%程度縮小できること,エプロンの面積を22~41%の規模に縮小できることを示しました。これは,適用効率が高い点滴灌漑の場合,使用する用水量を節約できるので,タンク容量を小さくでき,エプロンの面積を狭くできることを,定量的にモデル解析したものです。近年では,集水エプロンに,アスファルトやフィルム,高分子剤などの不透水膜を地表の浅い部分に埋設して,降雨の集水効率を高める方法、あるいは、タンクを地下に埋設したり、タンクを被覆してタンクからの水面蒸発を防止する方法も試みられている。

これは,集水と地下タンクを組み合わせ,貯めた水の蒸発を少なくして節水を図った事例です。道路脇の小水路で,雨水を集めて,沈砂池を通して地下タンクに水を蓄え,作物に灌漑します。
また,別の例では、アスファルト道路脇の側溝へ流出水を集めて,地下タンクに雨水を蓄え,土塀の中では,換金性の高いリンゴを点滴灌漑で栽培しています。雨水をいかに有効に集めて農業に利用するかが,収量のポイントになるからです。

水資源を有効に使用するには節水が必要です。地表灌漑として,ボーダー灌漑,畦間灌漑があります。地表灌漑よりも散水灌漑の方が節水になります。さらに散水灌漑よりも点滴灌漑の方が節水になります。しかしながら,点滴灌漑では,減圧弁,圧力計,流量計,液肥混入器,バルブ,フィルターなどが必要で,施設経費が高くなります。例えば、ポンプを使用すれば維持管理費も掛かります。節水農業が普及するかどうかは,節水の必要性の認識と,経済的に維持管理ができるかどうかに依存します。

点滴灌漑は節水灌漑であることは知られていますが、土壌条件は節水に影響するのでしょうか?ここでは、砂質土壌に7日間断で点滴灌漑を行い、シルトの客土効果を比較したライシメータを用いた試験研究を紹介します。水適用効率は、降水量と灌漑水の和に対する、有効土層に貯留された水量で計算します。水適用効率は、それぞれ砂区が32.7%で、シルト20cm客土区が95.5%です。これは、シルト区の方が、多くの水を根群域に貯留していたことを意味します。同一の灌漑水量であっても、客土した場合は、作物にとって根群域から多くの水が利用できるので、蒸発散量も多く、その結果、収量も多くなります。このように砂質土壌に客土することで水適用効率が上昇して,節水になります。そこで,砂質土壌に対して、保水性と保肥力を向上させるために,最近でも、種々の土壌改良剤の開発が行われ、施用試験が進められています。

節水灌漑の中で,地中灌漑は土壌表面からの蒸発がないので、さらに節水になるのでしょうか?砂地でオクラを供試作物に選び,地中灌漑と、地表面に点滴灌漑を設置した場合について,水利用効率の比較試験を紹介します。水利用効率とは、1リットルの水で何グラムの収量があるかを推定するもので、作物生産に水が有効に利用されているかどうかの指標になります。
実験結果では,多孔質浸潤型地中灌漑は,適用効率が95%,水利用効率が 3.6 g/Lで,水が有効に作物に利用されています。採用した多孔質浸潤型ゴム管は,自動車のゴムタイヤを再利用したもので、ライン上に無数の多孔があり,フィルターを必要としますが,目詰まりの問題は稼動歴10年の実績で生じていません。日本では,まだ値段が高いので、施設野菜栽培,ゴルフ場,サッカー場の灌漑施設に利用されている程度です。

砂地栽培の地中灌漑で、水管理として、灌漑頻度が異なると、作物に対する水利用は異なるのでしょうか?砂地でパクチョイを供試作物に選び,多孔質浸潤型ゴム管を深さ5cmに埋設した地中灌漑区,地表面に点滴チューブを置いた点滴灌漑区を作成した場合,毎日灌漑,3日間断灌漑の比較試験を紹介します。多孔質浸潤型ゴム管を用いて地中灌漑を行う場合,圧力を一定として灌漑する場合,あるいは,流量を一定として灌漑する場合が考えられます。実験の結果,低水頭(10cm水頭)の状態で作物根による吸引力と土壌の吸引力に応じて,自動的に供給する灌漑方式が,より節水灌漑になるし,水管理も容易で,収量も多いです。このように,地中灌漑でも、きめ細かな水管理が節水農業のポイントになります。

砂地は保水力や保肥力が乏しいために,きめ細かな水管理を必要とします。最近,砂地の土壌水分張力を正確に測定できる埋設型感圧水分センサーが開発され、センサーによる実用的な自動灌漑が可能になりました。自動灌漑システムの違いが、作物の生育に影響するのでしょうか?同一施肥条件下の砂ベッド栽培試験で,タイマー制御による時間でON-OFFする方法と、センサーによって水分状態を制御する方法を採用したサラダ菜の生育比較試験を紹介します。タイマー制御は天候に関係しないで灌漑しますが、センサー制御は土壌水分の状態で灌漑するので、水管理が合理的で生育も良い。比較試験の結果,センサー区の方が市場の出荷サイズになる生育期間が短くて,節水できることが明らかになりました。このように、根群域の土壌水分を作物に適した状態にできれば,収量が多くなり、品質も良い作物が期待でき,水利用効率も高くできます。

マルチは土壌面蒸発の抑制効果があります。ビニルマルチ栽培や,トンネル栽培が,かなり普及しています。しかし,最近の環境問題でビニルの回収処理が問題になってきています。そこで、ビニルに代わる環境にやさしいマルチ資材に節水効果があるでしょうか?そこで,地表に再生紙マルチを被覆した点滴灌漑試験を紹介します。誘電率水分計を用いて,再生紙マルチ区とマルチのない対照区の土壌水分変化を測定した結果,明らかに,再生紙マルチによる根群域の水分保持効果が認められました。さらに,再生紙マルチにより,遮温効果があり地温が下がること,雑草の繁茂を防ぐこと,土壌面蒸発を軽減できること,収量が増加することが分かってきました。

灌漑農業で,維持経費の節約について紹介します。最近は,ポンプ揚水も,このように動力に変わってきていますが,燃料が必要です。そこで,自然エネルギーを使用します。この例は,風力による揚水機を使用して,地下水灌漑農業で,小麦やヒマワリを栽培しています。揚水量は少なく,小灌漑規模で,地下水の枯渇の問題はありません。利点としては,自然エネルギーを使用しているので,維持管理費が安く,これからの乾燥地の灌漑方法として有望です。しかし,自然条件,つまり,風速に左右されるので,高性能の蓄電池の開発が必要です。今後は、化石燃料の使用から、自然エネルギーの使用に、変えていく必要があるでしょう。

太陽光発電の揚水ポンプへの利用について紹介します。地下水の揚水,下流側から上流側への導水など動力ポンプを使用する場合には,自然エネルギーとして,太陽エネルギーを利用することが有効です。太陽光発電の技術は急速に進歩しています。シリコン電池などの技術開発も盛んで、年々、効率は上昇しています。発電システム全体として,1Wあたりの発電コストも低下してきています。発電効率も向上してきています。乾燥地の乾季は太陽エネルギーを十分利用できます。しかし、普及させるためには、砂嵐などによって、パネルが破損しないような防止技術の向上,そして、耐用年数を伸ばし、経済的により安価であることが必要です。

地気熱と太陽熱によって塩水から蒸留淡水化するシステムを紹介します。水槽に塩水があり,太陽熱で蒸発し,これを集水できます。同時に,シロッコファンで水蒸気を地中塩ビ管に運びます。土壌の深い部分は,気温が低いので塩ビ管の壁面に凝結水がつき,集水タンクに水が貯まるという仕掛けです。実用化と普及のためには,集水効率を向上させること,複合蒸留淡水化システムの耐用年数を伸ばすこと,経済的な規模の大きさを決定することなどが必要です。

太陽熱で海水から水をつくる技術を紹介します。海水は,太陽の熱で蒸発し,屋根に沿った特殊フィルムに接触して凝結します。結露水は斜面を伝って集水管に落ちて、集水槽に水が貯まると言う仕掛けです。実用化と普及のためには,集水効率の向上,太陽熱蒸留器の耐用年数,経済的な規模の決定などの問題があります。

太陽エネルギーによる結露による造水装置を紹介します。この図は,「露塚」という淡水化装置です。直径1mの鋼製円筒に透明特殊フィルムを被覆し,中には塩水があり,蒸発する仕組みです。結露水が漏斗に入り,回収容器に集められます。結露水の1日の回収量は,2mmと報告されています。以上,造水装置について紹介してきました。乾燥地でいかに水を確保するかがポイントです。

灌漑農業にとって水資源を確保することが必要です。この図は,農業用水,工業用水,生活用水に分けて,全世界の水需要の変化を示したものです。これまでの100年間に,地球全体の水使用の総量は約10倍に増加し,ここ数10年の間に,世界の水需要の増加率は,人口の増加率のほぼ3倍にも達しています。21世紀は,さらに人口増加と生活水準の向上が予想され,水の需要と供給のバランスがとれずに,水不足は深刻な問題になると推定されています。新しい水資源の開発が期待されていますが,新たに水資源を確保することは困難です。そこで、海水や塩分濃度の高い排水から脱塩処理すること,生活雑廃水を処理して地下の帯水層に戻してから再利用すること、などの水の再利用が、重要な産業になっています。

以上,集水と節水農業,自然エネルギーの利用,造水技術について紹介しました。ここで,重要なことは,自然と人類の共存を背景に,21世紀の食糧と水資源を確保するため,持続的な農業を行うための技術を発展させることです。「持続性」には,水資源や土壌などの保全を考慮した「環境的な持続性」と,対象地の継続的な技術導入が可能であることを考慮した「経済的な持続性」が含まれます。これらの環境的持続性と経済的持続性の両者を満足するとともに,近代的技術と伝統的技術を利用し,経済的持続的なバランスを保つこと,そして,世界各地で,すでに行われた種々の灌漑事業の事例を参照すること,が重要です。砂漠化防止のためには,生態環境と農村社会構造をよく理解し,新たな開発によって環境が破壊しないように,対象地域に対する最適な持続的農業開発が必要です。さらに,植物・樹木の栽培技術の改良,生活改善技術,社会経済向上技術など,総合的に考えることが重要です。

今後は,乾燥地の総合的経済的持続的開発が有効と考えられます。塩水から水を作る淡水化の方法としては,電気透析法,逆浸透法,蒸発法などがあります。アラブ首長国連邦では,化石燃料である重油を燃やして海水を蒸発させて淡水を作っていますが,将来,化石燃料の埋蔵量が減少して,使用制限されると予測されます。汚水排水処理場や,脱塩装置には電力が必要です。風力発電,波力発電,海洋温度差発電,太陽光発電などの自然エネルギーを利用した発電システムが実用化されています。気温と地温との温度差を利用した地気熱交換式の節水灌漑,散水灌漑,太陽エネルギを利用した太陽熱蒸留,風力発電・太陽光発電による地下水の利用,地下ダムによる塩水侵入防止と水利用,水収支を考慮した余剰水の地下水涵養,海から海水を引いた養魚場の建設,パッドファン式冷房による施設栽培,地下タンクによる蒸発防止など,いろいろな技術があります。これらは,単独ではなく複合的に採用し,経済性と持続性を議論,熟知し,総合的な開発が必要です。

基本的に、住民参加型の技術支援が大切です。乾燥地の農業開発は、住民参加のボトムアップ型の開発で、身の回りの小さなことから改良することが重要です。砂漠化防止を実践するためには,住民の砂漠化の現状把握、植林の必要性の認識、女性や子供の意見の反映など、議論が必要です。すべての事が、経済優先に進められています。自然と人間の関わりを相互に理解し、グローバルな立場から砂漠化問題の議論を深めることが重要です。

乾燥地の経済的・持続的農業技術の発展

世界の人口は1999年に60億に達し,2025年には80億になると予想されています。この人口増加に伴い安定した食糧確保が必要です。食糧増産のため,世界各地で,原野の開墾・開拓によって農地面積を拡大する方法,あるいは高収量で病害虫に強い品種の開発,化学肥料と農薬の投与,灌漑排水の導入などの農業技術によって単位収量を増大する方法がとられてきました。しかしながら,過剰な開墾に伴う植被率の低下は土壌浸食を促進させ,過剰な灌漑は湛水湿害と地下水上昇に伴う塩類集積を起こして農地が荒廃し,砂漠化が進行しています。これは深刻な問題で,放牧地の砂漠化を含めると,砂漠化の影響を受けている面積と人口は,それぞれ世界の陸地面積の4分の1,世界人口の6分の1まで達しています。

食糧増産とともに砂漠化を防止するためには,適切な灌漑と緑化が必要です。乾燥地では太陽エネルギーが豊富で,湿潤地と比較して病害虫が少ないという利点があるため,適切な遮光と温度制御,適切な灌漑と施肥技術を導入すれば,作物生産に好ましい環境を作り出すことも可能です。

しかし,乾燥地は水資源が乏しく,土壌の発達が未熟で有機物も少ないので,水資源の枯渇と土壌劣化の危険性を含んでいます。そこで,わずかな降水量を効率的に集水する,牧畜で産した糞尿を有効に利用する,防風林で農地の風食を防ぐ,河川水や地下水などの水資源を開発し灌漑施設を導入する,灌漑排水の動力源として水力,波力,風力,太陽などの自然エネルギーを利用する,などの伝統的な農業技術と近代的な技術を駆使して,経済的で持続的な農業を行う必要があります。

また,いったん圃場内に塩類集積が生じると,これを回復するために莫大な時間と費用を要します。そこで,塩類集積を防止するため,灌漑水の量と質を把握する,圃場の除塩と地下水位の制御を行う,用水と排水を分離して排水を浄化する,そして節水が必要であるという農民の意識改革を行う,ことも重要です。

この資料を読まれた方の中から,ひとりでも多くの人が乾燥地の持続的農業技術の発展について理解を深めることができたら幸いです。ここまで、目を通していただきありがとうございました。